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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 満員の観客に、笑顔は見せられなくても心を込めて深々と礼を贈り。

 チームの皆が温かく迎えてくれる、キス・アンド・クライへと戻る。

「ごめん、なさい……。足、引っ張っちゃった……」

 切れた息でそう謝るヴィヴィを、悪く言うチームメイトは、誰一人としていなかった。

 優しく包み込む微笑みで「お疲れさん」「お互い、長いシーズンだったねえ」と労ってくれる戦友達の言葉に、泣きそうになった。

 技術的な基礎点だけでも20点も落としたヴィヴィは、やはり総合で4位へと甘んじた。

 日本チームの結果は、最終的に2位となり。

 その事に重々責任を感じながらも、ヴィヴィの顔にあった感情は、申し訳無さや哀しみだけでは無かった。

 バックヤード。

 インタビュー対し、一つひとつ丁寧に答えたヴィヴィ。

 そして、
 
 今シーズン最後となる演技後のそれを、このような言葉で締め括った。

「今夜、『ジゼル』とお別れ出来ました。

 もう、充分……。

 このプログラムを滑る事は、生涯に渡って無いと思います」







 4月8日(土)、国別対抗戦 最終日。

 7:30からのエキシビションの練習を熟し、14:00から始まったエキシビション。

 暗闇の広がる、埼玉スーパーアリーナのリンク。

 25弦箏(こと)を素手で弾いた、丸く深い音。

 その最初の一音を聞いただけで、ヴィヴィの胸は詰まった。

 白いベールを頭から被っている為に、その表情は他からは窺い知れない筈。

 そう自分に言い聞かせながら、白い大輪の牡丹を携え、何とか振付通りに滑り始める。

 箏で奏でられる第一主題に重なる、ヴァイオリンの繊細な音色。

 長い息を持つ主旋律のそれは、しっとりと響き。

 その後ろで音量を落とした琴がなぞる、ゆったりとした裏メロディー。

 その音色に乗せ、飛び上がった3回転アクセル。

 その着氷は見事だったけれど、

「……――っ」

 白いベールの中、涙が一筋 頬を伝い落ちていた。

 『花のように』

 何度聴いても、肌の表面が泡立つこの曲。

 それを匠海と初めて聴いた日の事が、ありありと思い出されて。

 生演奏で聴くその曲に、酷く心が揺さぶられた。

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