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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 確かに素晴らしい曲で。

 けれど、

 それだけでは無い “何か” を、その時のヴィヴィは感じ取っていた。
 
 泣き顔を見られたくなくて、ベールが剥がれない様、胸に抱き締めながらスピンを回る。

 その “何か” が今になって、ようやく合点が着いた。

 あの時は、解らなかった。

 どうして涙が溢れて、止まらなかったのか。

 今なら解る。

(赦されている様な、気がしたの……。

 この曲を、聴いたとき……)
 
 切なくて。

 儚くて。

 花の一生の様に、短くて淡い。
 
 けれど、

 その中に忍ばされた、強いメッセージ。

「大丈夫だよ」

「その心は本物だから」

「君が出来る事を、出来る範囲で頑張って」

「そしていつか、大輪の花を咲かせなさい」

 そう、言われているような、

 赦しを与えられているような気がしたの。
 
 涙が止まらなくて、それでも何とか3回転のコンビネーションジャンプを降りる。

 確かに、自分が過去に犯した行いは過ちで。

 そのせいで匠海を心身共に衰弱させ、後遺症まで残させてしまった。

 けれどその後、匠海自身の手助けも借りながら、両思いになり。

 それからのヴィヴィは、必死に兄を愛し続けた。

 多忙の身でもそれを言い訳にせず、ぎりぎりまで身も心も与え続けた。

 果たしてそれが合っていたのか間違っていたのかは、今となっては解らないが。

 それでも懸命に、ヴィヴィは匠海という1人の人間を全身全霊で愛し続けた。

 だから、この『花のように』という曲が、心を揺さぶり。

 癒しと赦しを与えられた――と感じたのだ。



『今は苦しくても沢山素敵な恋をして、

 いつかこの薔薇のように咲き誇り、

 そしていっぱい綺麗になりなさい。

 ヴィクトリア、私の可愛い孫娘――愛しているわ』



 いつかの祖母の言葉が脳裏を過ぎる。

 自分の名が付いた薔薇を手折ってくれた、

 お日様の様に暖かで愛情溢れる、祖母の言葉。

 もう、恋をするつもりはない。

 兄以外の男を愛する事は、自分には出来ない。

 けれど、恋だけが全てじゃないだろう。

 愛だけが全てじゃないだろう。

 自分にはまだ、スケートがある。

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