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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
東京ミッドタウンに位置する、リッツ・カールトン東京。
夕暮れの迫ったそこは、ラグジュアリーホテルの名に恥じない、シックで落ち着いた佇まいで招待客を出迎えていた。
ホテルマンに案内され、家族専用のウェイティングルームに足を踏み入れれば、
「え……、もう、呑んでるの……?」
クリスが呆れた声を上げながら、シャンパンを傾ける両親と、英国から駆け付けた父・母両家の祖父母に近付いて行く。
「息子の結婚式を祝杯して、何が悪い?」
「そうよ~。大丈夫、酔っ払って暴れたりなんてしないから~」
父と母の既に気持ち良さそうな声を聞きながら、ヴィヴィは祖父母の長旅の疲れを労り、再会のハグを交わす。
「まあまあ、ヴィヴィ……。誰だか一瞬、分からなかったわ!」
孫娘の出で立ちを見た母方の祖母が、そう言いながらあんぐりと口を開いていると、
「ああ、みんな揃ってくれてるね。悪いね、日曜の夜に」
そう発しながら入って来た、本日の主役の1人。
「あら、匠海。とっても似合ってるわ! 仮縫いの時にも見たけど、やっぱりスタイル良いから映えるわねえ~!」
母・ジュリアンの明るい声に、
「匠海。おめでとう。綺麗なお嫁さんに、可愛い孫まで。お前はなんて、親孝行ものなんだろうね」
心底嬉しさが滲み出た、父・グレコリーの声が重なる。
それぞれの祖父母と匠海が再会を喜び合う中、
ウェイティングルームの端にいたヴィヴィには、いつの間にかクリスが傍に寄っていた。
何も言わなくても、それだけで十分心強くて。
夜が色濃くなり始めた窓からの景色を、ただ眺めていた。
「瞳子さんにはもう会ったのかい?」
父の問いに、
「ああ、お腹は目立ってなかった」
兄のその返事が、背を向けていても聞こえて来て。
「ちょっと、感想それだけ? 綺麗だったとか、良く似合ってたとかないの?」
何故か憤慨した様子の母に、
「いや……。瞳子は自分の事よりも、花の方が気掛かりみたいでね」
兄のその言い訳に、
「花って、どういうこと?」
と父方の日本人の祖母が尋ねていた。