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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
まだ、妹としての役割を果たさねばならない。
心を落ち着けて、毅然と振る舞って、
最愛の兄の婚姻を、そして新たな命の誕生を喜ぶ妹。
誰の目から見ても見えるように、後 数時間だけは耐えなさい――。
そう、己に言い聞かせ。
ゆっくりと上げられた目蓋から現れた灰色の瞳は、
鏡の中の自分へ向かって、にっこりと極上の微笑みを湛えて見せた。
グランドボールルームへと移動して行われた、披露宴には250名もの人間で賑わっていた。
もちろん、新郎新婦の友人もいるのだが、
それよりも圧倒的に多かったのは、互いの仕事関係の招待客で。
後方の家族席からそれを眺めていたヴィヴィは、正直なところ「結婚式って、こんなものなの……?」と思ったが。
それはそれで、自分には都合が良い事にすぐに気付いた。
兄の方の客人には、ヴィヴィの見知った経営者や財界人が多く招かれていた。
皆が皆、自分が五輪で大きく崩れた時、
ある方はTwitterを通じて、広く世の中にヴィヴィの健闘を讃えて発信し。
ある方は直接、手書きの手紙を下さり。
ある方は、屋敷へとお見舞いの品を届けて下さった。
もちろんヴィヴィは、手紙やお礼の品にて、全ての方々に礼を返していたが。
もう匠海と同伴して、かねての様な公式な場に出向く事も叶わず。
直接面と向かって、礼をする機会に恵まれていなかった。
披露宴の進行を妨げない様、最大限の注意を払いながら、ヴィヴィは各人の元へと挨拶に回った。
皆、
「ヴィヴィちゃんの顔を、直接見れてほっとした」
「個人戦のFPは残念だったけれど、団体戦のFPは神がかっていたよ」
「世界選手権の連覇、おめでとう! 中継で見て、オジサン泣いちゃったよ~っ」
そう暖かな言葉で、自分を受け入れ労ってくれた。
そして、
「匠海君、結婚しちゃったから、ヴィヴィちゃん。もうお兄ちゃんの同伴はしないの?」
必ず各人から尋ねられたその残念そうな問いに、ヴィヴィは微笑みと共に頷いた。
「はい。瞳子さんという素晴らしい奥さんがいらっしゃいます。これからもどうぞ、兄の事を宜しくお願いします」