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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「瞳子さん。本日はおめでとうございます」
笑顔の仮面を張り付かせるヴィヴィに対し、
「ありがとう! 試合直後で疲れてるでしょうに、来てくれて本当に嬉しいわ」
ロンググローブに包まれた両手で、義妹となったヴィヴィの両手を拾い上げ、心底嬉しそうな微笑みを見せる瞳子。
その手が暖かくて、
ほっそりして見えるのに柔らかくて。
なんだか、泣きそうになる。
「瞳子さん……。お兄ちゃんの事、宜しくお願いします。結構難しい性格だと思うけれど、とても情の深い人だから」
「ええ。匠海さんのこと、支えられるよう、頑張るわ」
ぎゅっと握られて離された両手と、頼もしい言葉。
その瞳子の言葉に、ヴィヴィは勝手に肩に背負っていた荷物が下せた、そんな気がして。
(ああ、この人ならきっと、大丈夫……)
ほっと息を吐き振り返ると、そこにいたのは真行寺だった。
「ヴィヴィちゃん」
「太一さん! ……あ、あちらに行きましょうか」
招待客がわらわらと出て来るそこの、人の流れを止めてしまっている事に気付き。
ヴィヴィは太一のスーツの二の腕に掌を添えると、人の少ないロビーの方へと誘導する。
「すみません、お席にご挨拶に行けなくて」
太一や、ヴィヴィが知り得る兄の友人が居る事は気付いていた。
しかし、彼らはいつかまた会えるだろうが、それよりも来賓の面々には次回会える可能性は残されていない気がして、そちらを優先して挨拶に回っていた。
「いいや。忙しそうだったね」
濃紺のスーツに身を包んだ太一が、柔らかな微笑みを湛えながら首を振る。
「きちんとご挨拶したい方が、沢山いらしていて……」
篠宮側の客だけでも130名もいて。
隠せない疲労の色を滲ませるヴィヴィに、
「ごめんね……」
いきなりそう謝罪をしてきた太一。
「え……?」
「僕は結局、何も君の役に立てなかった」
そう続けて頭を下げるその姿に、ヴィヴィはただ驚いて。
「太一、さん……? え、やだっ 頭上げて下さいっ」
慌てふためくヴィヴィに促され、面を上げたその顔に浮かぶのは懺悔の表情。