この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「見当はずれな助言までして……。本当に、なんて謝ればいいのか……」
その謝罪の言葉に、あの日の太一の言葉が蘇る。
『匠海さんは、お見合いをすることで、親孝行になると思っているんじゃないかな?』
『あくまで僕の想像だけど……。お見合いをしているというパフォーマンス を両親に見せることで「自分は努力したけれど、婚姻には至らなかった。申し訳ない」と、態度で示そうとしてるんじゃないかと……』
『きっと、そうだと思う。ヴィヴィちゃんとずっと一緒に居る為の、匠海さんなりの戦略なんじゃないかな』
その言葉には説得力があり、
そして、
信じ込んだのは、他でもないヴィヴィ自身。
『こんな事、これから何十回とあるんだぞ? その度にこうやって、駄々を捏ねるのか?』
『俺も、色々と考えての事だ……。聞き分けなさい、ヴィクトリア』
そう、妹であり恋人であった自分を諭した兄。
もしかしたら、その言葉に嘘は無かったのかもしれない――その時点では。
けれど、見合いの席で瞳子に出合い、
そして、
匠海、は――。
「いいえ。こんな裏切り……。きっと誰にも解らなかった」
“裏切り”
人前で兄に対して直接的に批判した単語を発したのは、それが最初で最後だったと思う。
「………………」
ヴィヴィの吐いた毒に、太一が固まっていた。
(なんでだろ……、ヴィヴィ、この人には、最初から甘えてばっかり……)
彼の柔らかな雰囲気と、なんでも受け止めてくれそうな包容力に、ついつい頼ってしまって。
「ヴィヴィ、思ってますからね?」
一歩近付いたヴィヴィは、至近距離から太一の顔を覗き込む。
涼やかな目元が、驚いた様に少し大きくなり、
「え?」
「マドカのお兄ちゃんなら、ヴィヴィのお兄ちゃんも同じ――って」
それは、太一自身に言われた言葉をなぞった返事。
『円の親友なら、僕の妹も同じだよ』
混乱していたヴィヴィに、その言葉は何よりも安堵を与えてくれた。
彼の妹の円は勿論の事、その兄の太一も本当に大好きで、ヴィヴィにとっての大切な人達。