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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「見当はずれな助言までして……。本当に、なんて謝ればいいのか……」

 その謝罪の言葉に、あの日の太一の言葉が蘇る。



『匠海さんは、お見合いをすることで、親孝行になると思っているんじゃないかな?』

『あくまで僕の想像だけど……。お見合いをしているというパフォーマンス を両親に見せることで「自分は努力したけれど、婚姻には至らなかった。申し訳ない」と、態度で示そうとしてるんじゃないかと……』

『きっと、そうだと思う。ヴィヴィちゃんとずっと一緒に居る為の、匠海さんなりの戦略なんじゃないかな』



 その言葉には説得力があり、

 そして、

 信じ込んだのは、他でもないヴィヴィ自身。



『こんな事、これから何十回とあるんだぞ? その度にこうやって、駄々を捏ねるのか?』

『俺も、色々と考えての事だ……。聞き分けなさい、ヴィクトリア』



 そう、妹であり恋人であった自分を諭した兄。

 もしかしたら、その言葉に嘘は無かったのかもしれない――その時点では。

 けれど、見合いの席で瞳子に出合い、

 そして、

 匠海、は――。

「いいえ。こんな裏切り……。きっと誰にも解らなかった」

 “裏切り”

 人前で兄に対して直接的に批判した単語を発したのは、それが最初で最後だったと思う。

「………………」

 ヴィヴィの吐いた毒に、太一が固まっていた。

(なんでだろ……、ヴィヴィ、この人には、最初から甘えてばっかり……)

 彼の柔らかな雰囲気と、なんでも受け止めてくれそうな包容力に、ついつい頼ってしまって。

「ヴィヴィ、思ってますからね?」

 一歩近付いたヴィヴィは、至近距離から太一の顔を覗き込む。

 涼やかな目元が、驚いた様に少し大きくなり、

「え?」

「マドカのお兄ちゃんなら、ヴィヴィのお兄ちゃんも同じ――って」

 それは、太一自身に言われた言葉をなぞった返事。

『円の親友なら、僕の妹も同じだよ』

 混乱していたヴィヴィに、その言葉は何よりも安堵を与えてくれた。

 彼の妹の円は勿論の事、その兄の太一も本当に大好きで、ヴィヴィにとっての大切な人達。

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