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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 12時間半のフライトを経て辿り着いたのは、同日の13:20。

 入国審査を終えて空港を一歩出れば、そこは雨だった。

「……やっぱり……」

 薄い唇から洩れた声は、さほど残念そうでは無い。

 何故ならヴィヴィも知識としては知っていた。

 “April showers bring May flowers.
 ――4月の雨が5月の花を咲かせる”

 古くから英国に伝わる、そのことわざを。

「……てか、さむっ」

 スプリングコートに身を包んだ両腕を、抱き締めるヴィヴィに、

「だね……」

 隣で零された相槌が、あまりにも自然過ぎて。

 なので、ヴィヴィは一瞬 気付かなかった。

(………………?)

 その数秒後、

「クっ ……クリスぅ~~っ!?」

 裏返った声で仰天するヴィヴィの隣、

 ひょろっと立つその人は、紛れもない自分の双子の兄で。

「……付いて、来ちゃった……」

 妹と目を合わさず、明後日の方向を見つめるその口元が、ぺろっと小さく舌を出す。

 常なら「可愛い」と言ってしまいそうな、その仕草。

 けれど、今のヴィヴィはそんな場合では無かった。

「ん゛な゛……っっ ~~~っ!? あ、遊びじゃないのっ! か、帰って……っ!!」

(な……なんでっ!? なんで、どうして、バレてるんだよ~~っ!!!)

 心の中でもそう絶叫し、ふいっとクリスに背を向けるヴィヴィだったが、

 その薄い肩を掴まれ、難無く振り向かされてしまった。

「僕だって、遊びじゃないよ……」

「…………へ…………?」 

「ちゃんと “英国に用事” があって来たの……」

 静かな瞳で見下ろしてくるクリスに、ヴィヴィはただぽかんとし。

 妹が “第二の故郷” である英国で予約しているホテルを、何故か知っているらしいその人に、

 ヴィヴィは手を引かれ、とっとと連れて行かれたのだった。






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