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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 クリスがホテルへ戻って来たのは、残り滞在日数3日間となった頃だった。

 最後に顔を見た日より、妹があからさまに沈み込んでいる。

 ほとんど行動を共にしていないクリスでも、それは伝わったらしい。

 レストランでの朝食を終え、今日も定位置にへたり込むヴィヴィに、

「行きたいところ、あるんだ……。一緒に来ない……?」

 クリスが外出へと誘ってきた。

「……どこ……?」

「内緒……」

 そう言って、サクサク支度を始める双子の兄に、

(外を見れば、少しは気、紛れるかな……?)

 ヴィヴィは根っこが生えかけていたソファーから、のろのろと立ち上がり、自分の外出準備を始めた。






「……クリ、ス……?」

 そう片割れの名を呼んだヴィヴィの声は掠れており、

 小さな顔に宿るのは、驚きを通り越して放心した表情だった。

「ん……?」

 いつも通りの相槌を返してくるクリスを、黒い頭がギギギと音が聞こえそうなほど不自然に見上げる。

 そして薄い唇から放たれたのは、

「……留学……する、の……?」
 





 クリスがレンタカーでヴィヴィを連れ出した場所。

 そこは、ロンドンから1時間離れたオックスフォード、だった。

 セント・エドモンド・ホール。

 オックスフォード大学の根幹を成す、39有るカレッジの1つ――。

 歴史ある建物の中、かつて知ったる場所の様に入って行くクリスに、ヴィヴィはきょろきょろしながら付いて行く。

「やあ! おかえり、クリス。この黒髪のカワイコちゃんは……おや、ヴィクトリア選手?」

 30代半ばのキンタナ・ドミニクと名乗った博士は、親しげにクリスとハグし。

 そして、その隣でぽかんと口を開いているヴィヴィを、黒髪にしたにも関わらず見抜いてきた。

「は、初めまして……。クリスがお世話になって……いま、す……?」

 挨拶のつもりが、疑問形になってしまったヴィヴィに、

「はは! これからお世話するんだよ。ここ3日間の面接試験――クリスは本当に、我々の期待に応えてくれたよ」

 ドミニク博士は満足そうに微笑み、クリスの肩をバシバシ叩く。

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