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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 クリスが行方不明だった3日間。

 彼はこの第一志望であるカレッジで、他の受験者と寝食を共にし、各面接官と口頭試験を繰り返していたという。

「うぇえ゛ええ~~っ!?」

 何もかも初耳で驚嘆するヴィヴィに、

 双子の兄は、今年の10月からオックスフォード大学 経済学部に編入する事、を告白したのだ。

(うっそぉ……、ってか、い、いつの間に……?)

 クリスとドミニク博士が試験結果や、追加提出の書類等について確認し合っている横で、

 椅子に腰かけたヴィヴィは、内心首を傾げていた。

 確かにクリスは将来、匠海と同じようにMBAを取得する予定と言っていたが。

 てっきり東京大学を卒業し、しかもフィギュアの現役を退いてからの事だと思っていたのに。

(あ……。もしかして……)

 ヴィヴィはある事に思い至り、スカートの上に置いていた両手をきゅっと握る。

 思い起こせば昨年の夏、例年の里帰りで渡英した際、

 クリスは母と共に、ここオックスフォードへと訪れていた。
 
 “母が選手時代にお世話になっていた、スケートの恩師に会う為に”

「………………」

 ヴィヴィの顔がだんだんと俯いていく。

 クリスは自分の将来を真面目に考え、それを実行に移していたのだ。

 そして見事、世界で1・2を争うこのオックスフォード大学への編入を決めた。

 喜ぶべき事なのに。

 凄い、誇らしい、と心から思うのに。

 どうしても先に迫ってきた感情は “寂しい” ――。



『東大……。ヴィヴィと、一緒に、通いたい……』

『今までずっと、一緒だった……、僕とヴィヴィは――。だから大学も、同じところ、行きたい……』

『離れたく、ない……』



 高校2年の夏。

 クリスがそう言ってくれて、ヴィヴィは最初こそ(東大というありえない受験先に)戸惑いはしたが、やはり嬉しかった。

 日々の生活も、スケートも、学校も常に一緒だった双子。

 思春期を迎えても妹の自分と一緒に居たいと言って貰えるなんて、途轍もなく恵まれていたと、今になって解かる。

(寂しい……。離れ離れになっちゃうの……、凄く、さみしいよ……)

 匠海も家を出て、そしてクリスも半年後にはいなくなる。

 あの広い屋敷に、1人ぼっちになるのか。

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