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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
そしてクリスが師事するコーチも、申し分の無い経歴の持ち主だった。
ショーン・ニックス。
御年73歳の御仁は、英国出身。
妹とペアを組み、ペア・スケーティングで2度の五輪への出場、1度の世界選手権チャンピョンで現役生活を終え。
コーチへと転向してからは、
ペア時代のクリスティーナ・ヤマグチ(USA)
ジュリアン・ワイアット(英国)――双子の母(旧姓)
サーシ・コーエン(USA)
アシュリー・ワゴナー(USA)
という有名選手を、五輪へ導いた凄腕の指導者。
アメリカと英国を行ったり来たりの生活だったが、年も年なので故郷に腰を据えたいと、昨年からここオックスフォード・SCに在籍しているという。
「やあ、来たね。ヴィヴィ! ちっちゃい頃に一度会ってるけれど、覚えているかな?」
総白髪に垂れ目気味のお爺ちゃん先生が、更に目を垂れさせながらヴィヴィに握手を求めてくる。
「は、初めまして……。えっと、お、覚えてないです……スミマセン」
申し訳なさそうに謝るヴィヴィに、「そりゃあ、最後に会ったの3歳くらいだしね」とショーンはガハハと笑った。
英国に来てからのクリスは、ずっとここでお世話になっていたらしく。
着替えてアップを始める間、スタッフがヴィヴィに施設の案内をしてくれた。
その後は、滑り始めたクリスを2階のカフェから見つめていた。
「………………」
クリスは、既にこのリンクに馴染んでいるように見えた。
何人か知り合いのリンクメイトも出来たらしく、たまに言葉を交わしていた。
無表情で最初は近寄りがたいと言われる彼が、そこまでなっているのに驚きつつ。
やはり、寂しさが込み上げてきて。
両手で包み込んでいたカフェオレ・ボウルを脇にやったヴィヴィは、ずるるとテーブルに突っ伏した。
(くすん……。ヴィヴィ、ひとりぼっち、だ……)
クリスは3兄弟の中で一番器用だから、きっと新しい環境でもうまくやっていける筈。
だから、応援してあげなければいけないのに。
ただただ、寂しくて。
ありえない、と心の奥底では解ってはいたけれど、
双子はずう~~っと、一緒。
それこそ、死ぬまで一緒。
そう勝手に思い込んでいた分、離れ離れになるというショックは大きかった。