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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
カフェで遅めのランチを採り、リンクを出て。
ホテルに帰り着いた頃には、日が陰り始めていた。
「本当は、留学すると決めた時……、ヴィヴィを誘いたかった……」
一人掛けソファーに腰掛け、スケート靴を磨くクリスのその告白に、
「え……?」
隣の定位置に三角座りしたヴィヴィは、細い声と共に落としていた視線を上げる。
「けれど、ヴィヴィ、凄く日本での生活、充実しているように見えたし……。僕と一緒に英国になんて、来てくれないんじゃないかと思って……。怖くて、やっぱり、誘えなかった……」
「クリス……」
確かに、ヴィヴィはこの2年間、本当に何不自由無く日々の生活を送っていた。
母であるコーチに着いて行けば、間違いないと信じていたし、
大学の授業も、友人達との関係にも満足していたし、
すぐ傍には心を通わせた大切な人もいた。
そんな時にクリスに留学を勧められていても、答えは100%「NO」だったろう。
「1年半、東大を休学することに、なるけれど……。その間、留学準備を進めながら、ゆっくりと色んな事を考える……。そんな時間の使い方をしても、いいんじゃないかな……?」
「………………」
「オックスフォードは、世界中から色んな学生が集まるから、滞在施設も多様なんだ……。僕の選んだカレッジ……、家族連れ、多くて……。ワンルームの寮に入るんじゃなくて、2階建てのフラット(マンション)にも入れるし、テラスハウス(戸建)もある……。ヴィヴィが一緒にいてくれたら、僕、凄く心強い……」
クリスの発する言葉達は、今のヴィヴィには麻薬の様に魅力的だった。
正直、今のヴィヴィは、だいぶ無理をしている。
匠海に結婚して家庭を持ち、幸せになって欲しい――。
それだけを想い、ここのところを過ごしてきた。
そして、その匠海が結婚式を無事終えてみれば、
ヴィヴィに残った有益なものは、何も無くて。
心の中は空っぽで。
孤独。
絶望。
困惑。
そんな負の感情に囚われ、身動きが取れない状態に陥っていた