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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「ク……リス……」

「だって、僕……お兄ちゃん、だからね……」

 そう、なのだろうか。

 あの男も、恋人という関係にさえならなければ、

 兄と妹の関係であれば、ずっと傍にいてくれたのだろうか――?
 
 細長い親指が、自分の頬の丸みを愉しむ様に撫でていた。

「……1日だけ、ね……?」

「1日だって……、兄は兄だ……」

 そこだけは譲れないらしい、双子の兄の憮然とした表情に、

「ふふ……」

 自然と笑みが零れて。

 このままクリスと英国に来れば、自分はもう 苦しい思いをしなくてもいんじゃないか?

 そう、甘えに傾いていくのが解かった。

「信じて……。僕は絶対に、ヴィヴィを裏切らない……」

「……~~っ」

 本当に、

 本当に、信じていいの?

 クリスは、

 クリスだけは、ヴィヴィを裏切らない……?

「僕に寄り掛かっていいよ……。僕もヴィヴィに充分、寄り掛かってるんだからね……」

「………………っ」

 細く大きな掌の中、白い顔がくしゃりと歪む。



 怖かった――。



 相手に寄り掛かって、

 けれど、

 自分に寄り掛かっていた人が、忽然と姿をくらます。

 そして、

 呆気無く崩れ落ちるしかなかった、自分を知った。
 
 それをまた、繰り返すかもしれない、

 その、恐怖――。
 
 でも、クリスなら。
 
 クリスなら、絶対にそんな事をしない。

 双子の片割れで、

 いつも自分をより良い方向へと導いてくれるこの人は、

 ヴィヴィを絶対に裏切ったりしない。



 ぼろりと、大粒の熱い涙が零れ落ち。

 それはみるみる川筋を作り、肌理細かい頬を伝い落ちていく。

 最初は指で拭ってくれていたクリスだったが、それでは追い付かなくなり、

 自分の胸の中に抱き寄せ、纏っているシャツで滝の様な涙を受け止めてくれていた。

 ずっと涙が止まらなかったヴィヴィに、クリスは何度も同じ言葉をくれていた。

「ねえ、ヴィヴィ……。

 僕の隣で、ヴィヴィが笑ってる……。

 それだけで僕は、本当に幸せなんだよ……」
 
 幾度となく贈られるその言葉に、



『甘えるな、ヴィヴィ!』

『自分1人で乗り越えろっ!』



 そう心の奥で叫んでいる誰かが、徐々に霞んでいき。

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