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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
やがて涙が止まり、ぐずぐず鼻をすすり始めたヴィヴィ。
抱擁を解いたクリスは、ティッシュを差し出しながらも、頭を撫でてくれて。
「……ありがと、クリス……」
そう礼を言った言葉の裏で、ヴィヴィは謝っていた。
(……ごめんなさい、クリス……)
チーンと鼻をかむ妹を、兄は瞳を細めて見つめていた。
「ていうか、初めての海外生活……。1人じゃ寂しいから、ヴィヴィ、傍にいてよ……?」
最後にそう本音(?)を零した双子の兄は、やっぱり可愛らしくて。
「ふふ……クリス。寂しがり屋さん、だもんね?」
「……う、う~~ん……」
何故か、カッコ悪いところは認めたがらないクリスなのであった。
4月15日――英国滞在6日目。
双子はまた、オックスフォードにいた。
ショーン・ニックスからレッスンを受けるクリスを、リンクサイドで見つめていたヴィヴィ。
1時間経ち、休憩で氷から降りてきたショーンは、
真剣な面持ちで自分達を見ていた、ヴィヴィの傍へと寄って来た。
「滑りたい曲があるんです」
開口一番、硬い表情でそう発したヴィヴィに、
「ほう、何かな?」
驚きもせず、興味を前面に出してくるショーン。
「Lulu――」
その題名を出した途端、ショーンの温和な顔が、みるみる驚きの色を宿し。
「……え……? 君、が……? それは、また……」
静かだった青い瞳が、戸惑いを隠せずに揺れていた。
「やらせて頂けますか?」
強い口調で返答を求める小娘が考えている事など、祖父ほど年の離れたショーンはすぐに気付いたようだ。
五輪で不甲斐無い結果に終わったとはいえ、ヴィヴィは現・世界女王。
いくら英国で生活を築いて行くとはいえ、満足出来ない指導者に付く気はさらさら無かった。
ここからロンドンまで車で1時間。
そこまで行けば、指導者は他にもいるし、
最悪、1年間はコーチ無しで過ごすという選択肢もあった。
しかも、ヴィヴィの呈した無理難題は、それだけではなくて。
「自分は来季、■■■■■に取り組みます。させて頂けますね?」
続く要求にショーンは、今度は目も口もぽかんと開けてしまった。
その様子は、少し “はにわ” に似通っていた。