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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 しかし、

「ふん、いいよ。面白いじゃないか――」

 そう返事を寄越した御仁は。先程までの当惑の表情を引込め、強気に嗤った。

 しばらく、その表情をじっと見つめていたヴィヴィ。

 けれど、その様子は変わらなかったし、それどころかこの状況を面白がっている余裕すら感じた。

「………………」

 自分と同じくらいの背丈のその人の前、

 ヴィヴィはすっと姿勢を正す。

「ここ2日と短い間でしたが、貴方の指導法にとても感銘を受けました。どうか、貴方に師事させて下さい――」

 はきはきとした口調で相手を敬ったヴィヴィは、己から教えを請い、

 そして深々とその黒い頭を垂れた。

「いいよ。いつから来られる?」

 その軽い返事に、ヴィヴィはちょっと拍子抜けして面を上げる。

「えっと……、んと……、なるべく早く、に……?」

 いきなり自信無さ気に、灰色の瞳を彷徨わすヴィヴィに、

 ショーンは、がははと豪快に笑う。

「いやはや、ヴィヴィはジュリアンにそっくりだねっ!! あはは、こりゃおかしいっ」

 垂れ目に涙を浮かべながら爆笑するショーンに、ヴィヴィは物凄く嫌そうな表情を浮かべ。

(え゛~~、ヴィヴィ、あんなに傍若無人じゃないっす……)

 自分の事を全然解っていないヴィヴィは、取り敢えず頭の中で、そう突っ込んでおいたのだった。








 4月16日(日)の11:30にロンドンを発った双子は、12時間のフライトを経て。

 翌日、4月17日(月)7:30に羽田に帰り着いた。

 そして、その足で向かった松濤のリンク。

 ミーティングルームの1室で、双子と向かい合って座ったジュリアンは静かに息を吐き出し、唇を開く。

「なんとなくね、こうなる予感はしてたのよ……」

 てっきり頭ごなしに「ヴィヴィは駄目っ!!」と言われると思っていたのに。

 目の前の母の姿が、何だか寂しそうで。

「コーチ……?」

 何かを誤魔化す様に、組んでいた長い脚を組み直すジュリアンの姿。

「クリスが留学するって言い出した時、いずれはヴィヴィも……ってね」

 ジュリアンのその言葉を聞いて初めて、ヴィヴィはコーチとしての母の立場を悟った。

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