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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
双子が世に名を轟かす様になって、ジュリアンの元には全国各地から生徒が集まる様になった。
ジュニアでは、国内大会で表彰台圏内に近い生徒は出て来たとはいえ、
シニアに於いては双子以外では、ペアの成田・下城組しか、世界で戦える選手は出て来ていない。
そんな中、主要な双子がごっそり居なくなったら、ジュリアンのモチベーションは一体どうなってしまうのだろう。
「……ごめん、なさい……」
ヴィヴィはそういうつもりで謝罪したのだが、目の前のジュリアンはくしゃりと苦笑する。
「何を謝るの? ちゃんと準備してきたんだから、どのコーチの元でもあんた達は大丈夫よ」
「え……?」
小さくそう尋ね直したヴィヴィの隣、クリスも少し驚いた様に身じろぎする。
「小さな頃から、自分達の演技を毎日毎日繰り返して見させた。自分の弱点や癖は、2人とも把握出来ている。いつか、手を離れる時が来ると、確信していたからね」
「「………………」」
母のその言葉に、双子は驚きの表情を並べていた。
確かにフィギュアスケーターは、現役選手時代に何人ものコーチを渡り歩く選手が多い。
その一方で、ずっと同じ指導者の元で研鑽し、その選手生命に幕を閉じる者も少なくない。
実際ヴィヴィは、自分はそうなると思っていた。
そしてそれは、己の全てを熟知している母という掛け替えの無いコーチに、生まれながらに巡り合えた好機をもってしての事だった。
「まあ、もう少し後だといいな、とは思っていたけれど……」
その呟きが、今の母の一番の本心に思えた。
クリスの事は昨年の時点で覚悟していただろうが、
まさかヴィヴィまで自分の元から居なくなるとは、思いたくなったのだろう。
(ごめん……ごめんなさい……っ マム……)
不甲斐無い自分のせいで母に掛ける負担を想い、ヴィヴィの小さな顔がくしゃりと歪む。
「ありがとう、クリス、ヴィヴィ……。私はあんた達のコーチとして、ここまでやれて本当に幸せだったわ。私が2人を育てているつもりだったけど、反対だったわね」
本当は手離したくないだろうに、そう言って快く送り出してくれる母の深い愛情に、ヴィヴィは我慢出来ずに大粒の涙を零していた。