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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「どうして、ヴィヴィがお兄ちゃんの傍にいるのが辛いから渡英する――なんて思えるの?」
「ヴィクトリア……」
目の前で止まった指先が、行き場を失い。
やがて、黒く塗り潰された髪へと伸ばされる。
しかしそれも、ヴィヴィが一歩下がったことにより、すんでの所で触れる事は叶わなかった。
「昔の男に構ってられるほど、暇じゃないの。下らないこと言ってる暇があるなら、とっとと白金台に戻れば?」
これ以上、匠海に言うべき事は無かった。
踵を返して書斎を出て行こうとするヴィヴィを、匠海の苦しそうな声が呼び止める。
「ヴィクトリア……っ 頼む、信じて欲しい。昔も今も、俺が愛しているのは、本当にお前だけだ……」
細い背で受け止めたその独白は、確かにヴィヴィの心を軋ませた。
だが、それも一瞬の事。
「……子供が産まれれば、代わるわ……」
兄は妻への愛は認めなかったが、我が子が欲しいとは認めていた。
ならば、その子供が目の前に現れれば、
もうヴィヴィは――唯一の愛する対象であった自分は、用無しになるだろう――。
そう事実を言い置き、ヴィヴィは今度こそ書斎を後にした。
帰国して3日目、スポンサー宛てに “双子の所属先と指導者の変更” を伝え。
空いた時間はほぼ全て、スポンサーとの契約である広報活動に従事していた。
ヴィヴィがいきなり黒髪にした事に、関係者は度肝を抜かれていたが、
「黒髪もすっごく似合う! 余計にCMが注目されるから、こっちとしては嬉しい誤算だよ」
そう好意的な意見の方が多く、特に問題になる事も無かった。
双子の渡英準備は着々と進んでいた。
マネジメント会社 ING JAPANとの契約は、ING LONDONへと移行し。
日本での活動時は引き続き、牧野マネージャーが代行し、英国ではマネージャーが新規に就く。
スポンサーの大塚薬品工業から派遣されている柿田トレーナーについては、当分の間は英国に滞在して貰い。
それから英国在住のトレーナー探しを行い、徐々に引継ぎを行っていく。
同社の管理栄養士は日本からの情報支援を行い、試合の際は帯同してサポートを続けてくれる。