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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          



『……ヴィヴィ……、嫌い、になってしまいそうな人が、いるの……』

『ヴィクトリアは、その “嫌いになりそうな人”……? について、良く知っているのか?』

『苦手意識のある相手の事は、その側面しか見えなくなりがち……。そう思わないか?』



 奇しくも、一連の事に関して、匠海に言われた言葉までをも思い出し。

 ゆるゆると黒い頭を振り、その言葉を追い出したヴィヴィは、

 もう一度、コーチ陣とクリスに言い切った。

「もう終わった事です。自分の中でも解決したこと――騒がれなければいけない覚えは、ヴィヴィにはありません」






 しかし本人の意向とは関係なく、その記事が出てからというもの、ヴィヴィはあちこちでマスコミに追われる身となった。

 自分では観ないが伝え聞く様子では、テレビでは朝から晩までその話題で持ちきりで。

 更には、双子が東大を休学している事実まで明るみになり。

 それが余計に噂に尾ひれを付け――、



 ヴィクトリア選手が五輪個人戦で大きく崩れた理由は、そこにあるのではないか?

 東大は在学生間のトラブルを放置してきたのか?

 関係者やスケ連は、それを知っていて隠していたのか?



 憶測が憶測を呼び、事実から乖離した虚像だけが、どんどんと一人歩きをしていく。

 その様子はまるで、

 ヴィヴィが五輪で大敗した “犯人捜し” が日本中で行われているかのようだった。







 終息する事の無い世論に、ついにスケ連から「記者会見を開いて説明して欲しい」との要望がなされ。

 4月24日(月)。

 双子は松濤のリンクに於いて、臨時の記者会見を開く事になった。 

 それほど広くないロビーには、各社の報道陣が押し掛け騒然としていた。

 司会の牧野マネージャーは、予定時刻ぴったりにマイクを通して会見を始める。

「この度、篠宮 クリス・ヴィクトリア両選手は、所属を東京大学からオックスフォードSC(スケートクラブ)へ移籍する事となりました。よって、コーチは篠宮 ジュリアン氏から、ショーン・ニックス氏へと変更致します」

 そう紹介された双子は、据え置かれた長机に各々スーツ姿で腰を下ろし、

 事の成り行きを、少し冷めた目で傍観していた。

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