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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
マイクを持ち直したクリスが、口を開く。
「僕は既に、オックスフォードで指導を受けています。根気強く、選手自身の這い上がる力を信じて待ってくれるコーチ、という印象があります。母を五輪の銀メダリストに育て上げた、素晴らしいコーチです。僕達も尊敬し、付いていきます」
「ヴィクトリア選手はどうですか?」
一度口を開いた後、ずっと黙り込んだままのヴィヴィに、軽部が話を振ってくる。
「私はまだ2度お会いしただけで、兄が指導を受けているのを見ていました。実際お話をさせて貰って……、あ~、うちの母の様な一筋縄ではいかない生徒を育ててきただけはあるなと、懐の深さ……? の様なものを感じました」
そのヴィヴィの返事に、緊張感が漲っていたロビーに笑い声が上がり、少し空気が和らいだ気がした。
けれど、
「週刊文夏 編集部の村井といいます。ヴィクトリア選手。大学在学中に虐めや嫌がらせがあり、それも渡英の要因という話もありますが?」
次いで問われたその質問に、カメラのフラッシュが一斉にヴィヴィに向けて浴びせられた。
「スケートに関するご質問以外はお控え下さい」
牧野の厳しい一喝で、その質問は流れ。
「テレビ夕日の田所と申します。大学で初めて日本の学校に通われたと思いますが、どのような印象を持たれましたか?」
女性のその質問に、ヴィヴィは報道陣をぐるりと見回し、静かに答え始める。
「大学に通うのは毎日とても楽しかったです。新しい知識を増やす機会を、多角的に思考する機会を与えてくれました。クラスメイトも、クラブの皆も面白い人達ばかりで、教諭陣はいつも暖かく、時に厳しく導いてくれました。この大学に進学して本当に良かったですし、在学出来た期間を心から誇りに思います」
本当の気持ちを真摯に言葉にしたヴィヴィに、また沢山のフラッシュが焚かれていた。
「NHKの三田です。ヴィクトリア選手。5月から渡英されるようですが、オックスフォードでは何がしたいですか?」
久しぶりに対面した三田ディレクターに、ヴィヴィは真っ直ぐと瞳を向ける、が。
「………………」
(ヴィヴィは……、ヴィヴィは英国で一体、何がしたいんだろう……?)