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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第33章
自分のことのように喜び口々に祝福の言葉や感想を伝えてくれる旧知の友人達に、ヴィヴィの顔が綻ぶ。お礼の言葉を返そうと口を開こうとした時、
「おい、ヴィヴィ! 早くリンクに入れっ!」
リンクの中に怒号が飛んだ。ヴィヴィは「また後で!」と皆に小さく掌を合わせてみせると、踵を返してその声の主――留守を預かってくれていたサブコーチのもとへと飛んで行った。
「うっわ……厳し~」
「今ジュリアンコーチ、日本にいないからね……その分も厳しくしてるんじゃない?」
「うへ……ヴィヴィも大変だな」
ヴィヴィ達の後ろでそんなことを漏らしていたリンクメイトの事など露知らず、ヴィヴィは団体戦で見つかった修正点を中心に、みっちりとサブコーチからの指導を受けたのだった。
日付が変わるころ帰宅したヴィヴィを待っていたのは、会社から帰宅したばかりの父グレコリーだった。
「ヴィヴィ! My sweet Bambi!!」
小鹿ちゃん呼ばわりされたヴィヴィは、一階のリビングから飛び出してきたグレコリーにがしっと熱い抱擁を受けた。
「た、ただいま、ダッド」
父の迫力に少し気圧されたヴィヴィがどもりながらそう答えると、グレコリーはヴィヴィの体をひょいと持ち上げてその場でぐるぐると廻りだした。
「わわわわ!」
腰に回された力強い腕に支えられてはいるものの、遠心力でヴィヴィの下半身が浮き上がり弧を描く。10周ほどしてやっと解放してくれた父に、ヴィヴィは笑いながら抱き着く。
「お帰りヴィヴィ。やったな~、うちの可愛いおちびちゃんが、オリンピックのメダリストだぞ!」
「Thank you ダッド! 応援来てくれて、ありがとね~」
ヴィヴィの白い両頬を大きな掌でくるんだグレコリーが、愛娘を誇らしげに見つめてくる。その瞳には微かに涙も浮かんでいて、ヴィヴィの胸にも熱いものが込み上げる。これまでずっと様々な面で支えてきてくれた父に少しでも恩返しが出来たと、ヴィヴィはちょっとだけ自分を誇らしく思った。
もう一度父の胸に飛び込んだヴィヴィは、冬のスーツを纏った父の腰にぎゅっと腕を回してハグをすると体を離した。離れがたそうに娘の小さな頭に掌を置いた父をヴィヴィが見上げた時、執事が玄関ホールの大きな扉を開く音が鼓膜を揺らした。そして続く、大理石の床を踏む硬い靴音。