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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

「だ~か~ら~、覚悟して置きなさい、ヴィヴィ」

 細く高い鼻を指先で ちょんと突いてくる白砂は、

 冗談か本気か、ヴィヴィの目の前で蠱惑的に微笑んでいた。

「ヴィヴィ、もう恋はしませんよ?」

 じくじくした胸の痛みを誤魔化す様に、そう言って可愛く睨むヴィヴィに、

「ぶはっ 何、その昭和の歌謡曲みたいなセリフ! あははっ」

 黒縁眼鏡の奥の瞳を細めた白砂は、腹を抱えて笑い。 

「♪もう恋なんて しないなんて~、言わないよ絶対~♪」

 と完璧な音程で唄いながら、ヴァイオリンを片付け始めたのだった。







 誕生日パーティーも無事終わり。

 窮屈な着物から解放されて湯を使ったヴィヴィは、日付が自分の誕生日へと変わっている事に気付き、

「ん……?」

 そう小さく呻きながら黒い頭を捻った。

 何だろう。

 何か大事な事を、忘れている気がする。

 いつもハーブティーを用意してくれる、朝比奈の姿が傍に無く。

 まあいいかと、冷蔵庫を開けようとした途端。

 その上に置かれているグラスを見たヴィヴィは、

「あ゛……」
 
 そう変な声を上げ、

(やっちゃった……)

 心の中で零しながら、乾かしたばかりの黒い頭を抱えたのだった。






 廊下に出れば、ちょうど執事の五十嵐と出くわし。

 言付けしたヴィヴィは数分後、

 用意された物を持参し、右隣の部屋の扉をノックした。

「はい、どうぞ……」

 クリスの声に続き、中から開けられた扉の先には朝比奈がいて。

「お嬢様、そちらは?」

 ヴィヴィに似つかわしくない代物を目にした執事が、不思議そうに主に尋ねながらも替わって持ってくれる。

「うん。クリス、朝比奈。これ、一緒に飲んでくれない?」

 ヴィヴィが言った “これ” とは、

 褐色のボトルになみなみと充填されている、黒光りする赤ワインで。
 
 銀のトレイの上には、大ぶりのワイングラスが3つ並んでいた。

「どうしたの、これ……?」

 驚きに目を瞬かせるクリスの目の前、紺のソファーに腰を下ろしたヴィヴィは呟く。

「……貰ったの」

「誰に……?」

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