この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
「だ~か~ら~、覚悟して置きなさい、ヴィヴィ」
細く高い鼻を指先で ちょんと突いてくる白砂は、
冗談か本気か、ヴィヴィの目の前で蠱惑的に微笑んでいた。
「ヴィヴィ、もう恋はしませんよ?」
じくじくした胸の痛みを誤魔化す様に、そう言って可愛く睨むヴィヴィに、
「ぶはっ 何、その昭和の歌謡曲みたいなセリフ! あははっ」
黒縁眼鏡の奥の瞳を細めた白砂は、腹を抱えて笑い。
「♪もう恋なんて しないなんて~、言わないよ絶対~♪」
と完璧な音程で唄いながら、ヴァイオリンを片付け始めたのだった。
誕生日パーティーも無事終わり。
窮屈な着物から解放されて湯を使ったヴィヴィは、日付が自分の誕生日へと変わっている事に気付き、
「ん……?」
そう小さく呻きながら黒い頭を捻った。
何だろう。
何か大事な事を、忘れている気がする。
いつもハーブティーを用意してくれる、朝比奈の姿が傍に無く。
まあいいかと、冷蔵庫を開けようとした途端。
その上に置かれているグラスを見たヴィヴィは、
「あ゛……」
そう変な声を上げ、
(やっちゃった……)
心の中で零しながら、乾かしたばかりの黒い頭を抱えたのだった。
廊下に出れば、ちょうど執事の五十嵐と出くわし。
言付けしたヴィヴィは数分後、
用意された物を持参し、右隣の部屋の扉をノックした。
「はい、どうぞ……」
クリスの声に続き、中から開けられた扉の先には朝比奈がいて。
「お嬢様、そちらは?」
ヴィヴィに似つかわしくない代物を目にした執事が、不思議そうに主に尋ねながらも替わって持ってくれる。
「うん。クリス、朝比奈。これ、一緒に飲んでくれない?」
ヴィヴィが言った “これ” とは、
褐色のボトルになみなみと充填されている、黒光りする赤ワインで。
銀のトレイの上には、大ぶりのワイングラスが3つ並んでいた。
「どうしたの、これ……?」
驚きに目を瞬かせるクリスの目の前、紺のソファーに腰を下ろしたヴィヴィは呟く。
「……貰ったの」
「誰に……?」