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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
クリスが訝しがるのも無理はない。
シャトー・ムートン・ロートシルト 2003。
双子の生まれ年の20年物のヴィンテージワインは、酒も飲んだ事の無いヴィヴィが、おいそれと手を出せる代物では無い。
「……2年前に、お兄ちゃん、に……」
言いにくそうに呟くヴィヴィは、胸の中で自分を叱咤していた。
どうして忘れていたのだろう。
匠海が新居に引っ越す前に、兄から贈られたものは全て処分するか返却したのに。
すっかり失念していたこの赤ワインは、地下のセラーで2年もの間、この時を待って眠っていたのだ。
「お開け致します」
朝比奈が黒スーツから取り出したワインオープナーで抜栓し。
そして注がれたワインは、時間の経った血の様な濃い赤だった。
「ありがとう」
グラスを受け取ったヴィヴィは、クリスと執事と乾杯し。
一口含んだその濃厚な雫を、舌の上で転がしたのち、ごくりと飲み込む。
「……これって、美味しいの?」
眉をハの字にするヴィヴィに、
「凄く、美味しいよ……」
「今まで飲んだ中で、一番美味しいです」
クリスと朝比奈は、そう即答してきた。
「そう。ヴィヴィ、ワインなんて解らないから……」
そりゃあそうだろう。
きちんとワインを口にしたのは、これが初めてなのだから。
シャンパンは――匠海の口内を舐め取った味しか知らないし。
『お酒の飲み方とか、お酒の席での振る舞いとか? ヴィヴィ、お兄ちゃんに教えてほしい』
『ああ……。良い事も悪い事も、全て俺が教えてやるよ』
そう言ったあの人は、その後、
『取りあえず今は、気持ちのいいセックスを、ヴィヴィの躰に覚えこましたい――』
そんな事を言って、自分の躰と心をトロトロに溶かして――。
「………………」
どうやらアルコールというのは、思い出したくも無い事を、より鮮明に思い出させる困った飲み物らしい。
思考を断ち切る様に ちびちび飲んでいると、
気を利かせた五十嵐が、赤ワインに合うチーズや干した果実を用意して来てくれて。
それをつまみにしながら、どうやらいける口の朝比奈が、このワインの味を説明してくれた。