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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章
ムートンのワインの特徴は、パワーを兼ね備えたバランスの良い芳醇さ、肥えた印象を与える ふくよかさにあり。
カシス、花、ブルーベリー、西洋杉、ほのかなオーク香など――その独特の香りは、
熟成を経て他に類を見ないエキゾチックな香りに変化していく――らしい。
さすが執事。
ワインに関する的確な知識を実地で1つ増やした双子は、なんだかちょっとだけ大人になった気がした。
ただ、2杯飲み終わったところで、ヴィヴィの身体はなんだかフワフワしてきて。
腰に挟んでいた紺のクッションを抱き締めると、とろんとした目付きで言い訳をする。
「全部、捨てたの……。捨てられないもの、は返して……。でも、これ、処分するの忘れてて……。2人とも……、付き合わせて、ごめんね?」
自分と同じ年に生まれ、同じ20年を刻んで来たこのワインを、捨てるには哀しくて。
ならば自分の本当の誕生日を、大切な2人と極上の酒で祝ってしまおうと思ったのだ。
「ううん。ヴィヴィ、20歳、おめでとう……」
そう優しく囁きながら抱き締めてくれたクリスに、ヴィヴィはその胸の中で礼を返す。
「ありがとう、クリス」
そして、もう一人。
自分をここまで育ててくれた、執事の胸の中にも抱き寄せられる。
「お嬢様、ご成人、おめでとうございます」
「ありがとう、朝比奈……」
けれど、ヴィヴィの意識が正常だったのは、その時までで。
初めてきちんと口にした酒に酔っぱらったヴィヴィは、朝比奈に抱きかかえられて自分の寝室へと戻る事となった。
ベッドに降ろされた感触で、意識を取り戻したヴィヴィに、
「お嬢様。どうぞこのままお休み下さい」
柔らかな声と微笑みを与えてくれる執事。
その黒スーツの袖口を握ったヴィヴィは、くしゃりと顔を歪めた。
「朝比奈……。ごめん、なさい……っ」
「お嬢様……」
泣き出す一歩手前の幼い主の顔を、朝比奈は少し驚いた様に見下ろして来て。
「本当に、本当に、ごめんなさい――っ」
謝罪の言葉を重ねるヴィヴィの手を執事はそっと握り、自分の袖口から離して羽毛布団の中へと仕舞う。
「いいえ。お嬢様が謝りになられる理由など、何もございませんよ」
「………………っ」