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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第113章          

 自分を見下ろす執事の瞳は、あくまでも優しくて。

 言い知れぬ罪悪感に、目を瞑って逃れようとしたヴィヴィに、

 朝比奈はそれでも、心からの言葉を贈ってくれたのだ。



「お嬢様。どうぞ、お元気で――」








 5月2日(月)。

 GW前日という事もあり、混み合う空港にまで見送りに来て貰うのは気が引けて。

 双子は篠宮邸で送別に来てくれた友人達と、別れの言葉を交わした。

 そして、

 すぐ近所に暮らす長男夫婦とも、挨拶を交わす。

「クリス君、ヴィヴィちゃん。元気でね? 英国は雨が多いから、濡れて風邪ひかないでね?」

 心底心配そうに言葉を掛けてくれた瞳子の左手には、当たり前だが銀色の指輪が嵌められていて。

 その柔らかな手を握ったヴィヴィは、

「ありがとうございます。瞳子さんも梅雨、風邪ひかないように気を付けて下さいね」

 少しお腹が目立ち始めたその人を気遣い、そう言葉を贈った。

 そして、

「クリス、ヴィヴィ。いつでもここに帰っておいで。お前達の家はここだけなんだからね?」

 双子を見比べてそう発した匠海に、ヴィヴィは喉仏の浮き出た首元を見つめる。

「お兄ちゃん、元気でね」

 月並みな返事だけれど、それはヴィヴィの本心だった。

 何故か号泣する父と、それに呆れた様子の母とも、お別れのハグを交わし。

 双子は皆に見送られて、篠宮邸を後にした。

 両親からの餞別で、ビジネスからファースト・クラスへ格上げして貰った、空港のラウンジ。

 窓際の席でサングラスを掛けたヴィヴィは、滑走路を数分置きに離陸していく飛行機の列を見ていた。
 
 サングラス越しなのに、外光の眩しさに何故か涙が滲んで。

 向かいに座るクリスに気付かれない様、何度も瞬きをしてそれを押し留める。 

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