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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第33章        

「あ~、気にするな。社の者もお前達がオリンピックに出ることは知っているのだから、最初から私達が観戦で留守にしても支障が出ないようスケジューリングされているよ」

 愛娘が困ったような表情を浮かべた頬を軽くつねったグレコリーは、そう言って笑い飛ばした。

「匠海はな~。お前達の前では優しい兄の仮面を被っているけれど、会社では怖いんだぞ~。私なんかいっつも『しっかりして下さい、代表なんだから』って、怒られてんの」

 世界有数の大企業のトップの知られざる真実を暴露しながら、ヴィヴィを腕の中に囲い込んで隣の匠海を睨む真似をする父にヴィヴィは吹き出す。

「ふふ! でもきっとお兄ちゃんのその『つっこみ』のほうが正しいんだろうね?」

 腕の中で無邪気に自分を見上げながらそう毒づく愛娘に、父の顔が悲しそうなものに変わる。

「ひ、ひどいヴィヴィ……そんな可愛くないことをいう子には、お仕置きだ……朝比奈!」

 グレコリーは拗ねたようにそう言うと、近くに控えていた朝比奈を呼ぶ。

「はい、旦那様」

「その色紙100枚、ヴィヴィにサインさせろ」

「え゛…………!?」

 父の言葉に変な声を上げて朝比奈を見ると、その手には色とりどりの色紙が山のように積み上げられている。

「いいか、朝比奈。オリンピックで疲れているヴィヴィに無理はさせるな。けれども『出来る限り・早急に・速やかに』仕上げるように、プレッシャーも忘れるな?」

「……畏まりました」

「………………」

 完全に巻き込まれた形の朝比奈に同情しながらも、ヴィヴィは唇を尖らせて父を見上げる。見事してやったりという表情で小さく舌を出してあさっての方向を見ている父にヴィヴィは嘆息すると、背伸びをしてその頬にキスをした。

「もう寝るもん! おやすみダッド!」

「はいおやすみ、ヴィヴィ」

 軽くハグしてヴィヴィを解放してくれたダッドから離れると、どうやら私室へ上がるらしい匠海と連れ立って3階にある私室へ向かおうと階段を上り始める。

「あ、そうだ、ヴィヴィ」

 リビングへ戻ろうとしていたグレコリーが、何かを思い出したようにヴィヴィ達を振り返る。

「なあに?」

「各色紙に相手の名前が書いてあるから『○○社長へ♡ 愛をこめてxoxo』って添えるのも忘れずに!」

「―――っ!?」

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