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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第114章 ★★2015年 バレンタイン企画★★
「あ、純也ちゃんは おビールもいるかしらね?」
いそいそと冷蔵庫へ向かう母の背に、
「お母さん。さすがに昼からビールは、結構で――」
「結構ですよ」と続けるよりも早く、くるっと振り返った母と目が合う。
「~~~っ!? じゅ、純也ちゃんっ!」
「……は、はい?」
「貴方 今、「お母さん」って言ったわねっ!?」
少々垂れぎみの眼を吊り上げ確認してくる母に、梅シソ巻トンカツに箸を伸ばしていた純也は きょとんとした。
「え……? ええ、言いました。それが、どうかしましたか?」
「~~~っっ ひ、酷い~~~っ!!!」
「……え゛……?」
(な、何が酷い……? トンカツ食べては、駄目だったのか?)
見当違いな理由を思い浮かべる息子の前、両の拳を胸の前に掲げた母が絶叫する。
「ママンの ♡可愛い可愛い純也ちゃん♡ が、そっ そんな他人行儀な呼び方で、ママンを遠ざけて独り立ちしようだなんてっ!!!」
「は、はあ……?」
「イタリア人が例えお爺ちゃんになっても、実母を「マンマ」と呼ぶように。フランスで育った純也ちゃんは、死ぬまでママンのことは「ママン」って呼ばないとなの!!」
ぶりっ子(古)宜しく、拳を握り締めながら主張する母に、純也はようやく理解した。
「え~~と。私、生粋の日本人ですよ……? それに、私はもう21歳です。流石にその呼び名は恥ずかしいです」
コレージュ(中学校)に上がる前にも、同じやり取りを交わした苦い経験のある純也。
朝比奈家には「母国語を忘れぬよう家では日本語を使うこと」という家訓がある。
それこそフランス語での家族の会話ならば「ママン」呼びも良いのだが。
日本語の会話で「ママン」呼びする21歳男子なんぞ、日本女性の100%にドン引きされるのは想像に難くない。
「今度こそ、己の主張を貫こう」と頑張ってみたのだが。
母の瞳からボロボロと大粒の涙が溢れるのを目にした途端、純也は椅子から飛び上がった。