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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第114章 ★★2015年 バレンタイン企画★★

(う゛……。果てしなく お可愛らしい……。でも、駄目なものは駄目です)

「そうです。お片付け、です」

 お片付け。

 三十路、四十路でも嫌いな人間のほうが多いだろう、その面倒くさい行いに、

 3歳児はもちろん、顔を顰めた。

「……やだぁ~~」

「 “遊んだものは片付けてから、次の遊びをする” これは大切なことですよ」

 なるべく柔らかく諭した朝比奈にも、イラついたのだろうか。

「やだもんっ 林、片付けといて!」

 癇癪を起した小さな王女は命令を下すと、朝比奈から ぷいと顔を反らした。

「ヴィクトリア様」

「………………っ」

 若干厳しめの朝比奈の声に、金髪が流れ落ちる肩がぴくりと震える。

「駄目です。自分で片付けましょう」

「………………」

 クリスの傍から立ち上がった朝比奈は、完全に臍を曲げてしまっているヴィヴィの前へと歩み寄り、

 しゃがんで目線を合わせると、下膨れ状態の幼女を再度 諭した。

「片付けてからのほうが、気持ち良く遊べます。それに玩具も大事に遊んであげれば、長くもちますよ」

「………………」

 気のせいか。

 膨らんでいたほっぺが、更にその大きさを増した気がした。

 彼女のそんな姿が、幼少の頃の妹達の面影に重なり。

 銀縁眼鏡の奥の瞳を細めた朝比奈は、白手袋に包まれた右手を差し出した。

「私も お手伝いしますから、ね?」

「……ふぁ~~い」

 しぶしぶ お片付けを認めたヴィヴィは、

 目の前の大きな掌に、嫌そうに小さな手を乗せたのだった。



 暫らくは、その愛らしい唇はツンと尖ったままだったが、

 散らばった木製のボウルやら、フライパンやらを広い集める内、機嫌が直ったらしいヴィヴィ。

 その様子に ほっと胸を撫で下ろし、元いたクリスの方を振り返れば、

 林とクリスの様子は、先程までの朝比奈と同様――

 頑張って話し掛ける執事候補と、興味無い事にはトコトン無言を貫く3歳児の、

 静かなる攻防(?)が繰り広げられていた。 

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