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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第33章
「ん~……?」
少しお酒に酔っているのか、匠海は間延びした返事を返してくる。
「……もう、しないの……?」
「うん?」
恐る恐るヴィヴィが口にした質問にまったく見当がつかない様子の匠海が、訳の分からないといった表情を見せる。
(やっぱり……覚えてないのかな……?)
匠海の反応を見て躊躇したヴィヴィの表情が一気にしょげたものになる。しかし「言ったらメールの内容を思い出してくれるかも?」という期待のほうが大きすぎて、やはり続きを口にしてしまった。
「もう……『ハグ』……しない、の……?」
勇気をふり絞って詰まりながらもそう言い切ったヴィヴィ。しかしその数秒後、匠海はぶっと吹き出した。
「あ、あははははっ!」
最初はソファーに座ったまま爆笑していた匠海だったが、最後には腹を両手で抱えるようにソファーで笑い転げていた。その様子に最初は唖然としていたヴィヴィも、徐々にむっとしてくる。
(もう! ヴィヴィのドキドキしたあの時の気持ち、返してよ!)
「お、お兄ちゃんなんて……キライっ!!」
笑われた恥ずかしさで頬を染めたヴィヴィは、そう言い捨てて扉を閉めようと真鍮のノブを握ろうとした時、
「ごめんって……おいで」
倒れていたソファーから上半身を起こした匠海が、そう言って笑みを浮かべながらヴィヴィへと片手を上げてみせる。その途端、ヴィヴィの中に巣くっていた苛立ちがすっと消え、代わりにそわそわと浮き足立ち始めた。灰色の瞳が迷いを表すように右往左往する。
(ど、どうしよう……よくよく考えると、恥ずかしくなってきちゃった。で、でも『おめでとうのハグ』……お兄ちゃんから欲しいし……)
「……ない?」
ヴィヴィは閉めかけた扉を少しだけ開いて、眉をハの字にして呟く。
「ん?」
聞き取れなかったらしい匠海が、優しく聞き直してくれる。
「わ……笑わない……?」
躊躇してそう言ったヴィヴィに匠海はまた噴出して、上げていないほうの手で口を覆う。
「ぷっ。わ、笑わないよ」
「わ、笑ってるじゃない――っ!」
ヴィヴィはそう叫ぶように突っ込むと、ぷいと踵を返して後ろ手にノブを掴み引っ張った。けれどそんなヴィヴィの背に、落ち着いた声が掛けられる。
「おいで」