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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第33章
少し低くて甘さを含んだ匠海の声に、ヴィヴィの肩がぴくと震える。きっと今振り向けば、ヴィヴィの大好きな匠海の素敵な微笑みが見られるはず。けれど咄嗟に振り向けるほどヴィヴィも素直じゃなくて。
戸惑っているヴィヴィの背後で、ギシリと革製品独特の衣擦れの音がする。恐る恐る振り向いたヴィヴィの視線の先には、黒皮のソファーから立ち上がった匠海が、大きく両手を開いてヴィヴィに笑いかけていた。
「ほら、おいでって」
その声は、言葉は、躊躇していたヴィヴィの心を甘くくすぐった。
「…………むぅ」
唸りを上げながらヴィヴィは二人の部屋の境界を越え、モコモコのソックスに包まれた細い足を滑らせるように、ゆっくりと匠海との距離を詰めていく。そして匠海の目の前にまで辿り着いて恐る恐る見上げると、その体は匠海によって引き寄せられた。
「はい。ぎゅ~~」
匠海は効果音をつけてヴィヴィを胸の中に仕舞うように抱きしめた。身長差のあるヴィヴィは匠海のネクタイにぎゅっと顔を埋めるように抱き込まれる。途端にヴィヴィは匠海の爽やかな香水と、男らしい匂いが混ざった匠海だけの香りに囚われる。そういえば、ちょっとお酒の匂いもする。
(あ……これ、好き……)
自分の後頭部を匠海の大きな掌に添えられて抱きしめられるのが、ヴィヴィはたまらなくよかった。髪越しに匠海の体温が染み入るようで気持ちがいい。恥ずかしさから強張っていた華奢な身体からふっと力が抜け、瞳がとろんと蕩けたように潤む。
(幸せ……このまま、ずっと……このまま……)
ヴィヴィの長い睫毛がゆっくりと降りていき、それとは反対にその両腕は匠海の腰に柔らかく巻きつけられる。微かなお酒の匂いに酔ったのか、瞼を閉じたヴィヴィの体はふわふわとした浮遊感に包まれていた。
(ふわふわ……する……気持ち、いい……ふわふわ…………ん?)
なぜかその浮遊感に疑問を呈した脳が瞼に指令を送り、視界が開ける。先ほどまでは匠海のネクタイが目の前にあったのに、何故か今のヴィヴィの視線の高さは匠海の肩の上にあった。気のせいか足の裏が床に付かず、心もとなく宙に浮いている。
「な、んか……」
夢見心地の気分から目が覚めたように口を開いたヴィヴィに、匠海が「ん?」と聞き返してくる。