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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第34章      
 チッチッチッチッ……。

 狭いタクシーの車の中、ヴィヴィの細い手首に巻かれたスウォッチの秒針が、神経を逆なでするように時を刻み続けている。

 ヴィヴィは後部座席から身を乗り出して運転席と助手席の隙間から前方を覗き込むが、ずらりと連なった車列は1ミリも動くそぶりを見せない。隣に座った牧野マネージャーは関係部署とスマートフォンで連絡を取り合っており、助手席に座ったスケート連盟の付添人は手にした地図を見ながらおろおろとするばかり。

 ヴィヴィは今日何度も睨み付けたスウォッチの文字盤にさっと視線を落とすと、自分のバックから関係者IDとニットキャップをむんずと掴み取る。そしてタクシーの窓から後方を確認すると、おもむろに車のドアを開けて暗闇の広がる外に飛び出した。

「なっ……ちょ――っ!? ヴィヴィっ!!」

 ヴィヴィの背中に牧野の驚嘆した声が掛けられるが、構ってなどいられなかった。

 片側三車線の真ん中で止まっていたタクシーから車間をくぐり抜けたヴィヴィは、歩道に張り巡らせられた境界のポールをぴょんと飛び越える。そして手にしていたIDを首から下げて、ニットキャップを無造作に被ると一目散にダッシュした。

 途端に夜になってさらに冷え込んだ氷点下の冷気が、露出した肌に刺さるように迫ってくる。走ることは苦ではない。トレーニングの一環として毎日マシンで走っている。けれど焦った心理状態で走っていると、不安も手伝い息が上がり始めるのが早かった。

 乾燥した空気が喉を傷めつけ、吐く息さえも凍らせてしまう冷気が鼻腔にピリピリとした痛みを与え続けてくる。

 ヴィヴィは時折むせながらも走り続け、目の前にそびえているのになかなか辿り着けない照明に照らされた建物を見据えた。







「え…………」

「嘘……っ」

 2月13日。

 篠宮邸ライブラリーの100インチのテレビ画面を見つめていた友人達の口から、口々に驚きと戸惑いの言葉が零れる。

 画面に映し出されたクリスのSPの得点と3位という順位に、総勢18人のクラスメイトと一緒に日本で観戦していたヴィヴィは、タータンチェックの制服のスカートを両手でギュッと握りしめた。

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