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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第34章      

 キスアンドクライでジュリアンと共にSPのスコアを見つめているクリスはいつも通りの無表情だが、その整った顔には、ヴィヴィを始め幼少の頃から一緒にいる友人達には分かる、隠し切れない焦りと戸惑いが滲み出ている。

(クリス……)

 双子の兄の窮地に、ヴィヴィの心臓がきゅうと締め付けられるように苦しくなる。

「今まで、クリスがSPで1位以外だったことって、なかったんじゃ……?」

 ラグの上で胡坐をかき、くりくりの金髪に日の丸のはちまきをしたアレックスがそう言いながら、後ろのソファーに座っていたカレンを振り返る。

「確かに、ジュニアとシニアに上がってからはなかったかも……」

 フィギュア好きで昔からよく観戦に来ていたカレンが、口元に指を添えてそう答える。

「そうか……不安だろうな、クリス……」

「やっぱり、みんなで韓国まで応援に行けばよかったかな……?」

「でも、平日だしな……俺らのクラスだけ、誰もいなくなるのは学校が許してくれないだろ?」

 友人達が心配そうにそんな会話をしている中、アレックスが立ち上がってヴィヴィのいるソファーまでやってきた。

「みんな、大丈夫だって。明日のFPは、ヴィヴィがクリスの傍にいてやれるんだから」

 そう言ってヴィヴィの頭に掌を載せてぐりぐりと撫でてくるアレックスに、ヴィヴィも微笑む。

「そだね。役に立てるかわからないけれど、クリスがいつも通りの気持ちで滑れるよう、ヴィヴィも頑張ってみるよ」

 女子シングルの試合に向けて、明日の夕方に韓国入りすることになっているヴィヴィは、そう言って薄い胸を拳でどんと叩いた。

 その後「クリスに見せてあげて!」と言われた皆の寄せ書きを預かり、わざわざうちに来て一緒に観戦してくれたクラスメイトに礼を言って、皆を送り出したのだ。

 なのに、その翌日――、

(なんでこんな大事な日に限って、飛行機遅れちゃうのよ――っ!?)

 ヴィヴィは平昌の街を走り抜けながら、怒ってもしょうのないことを胸の内で叫ぶ。

 そう、翌日の2月14日に韓国へ出発するヴィヴィの飛行機は、整備不良で2時間も飛ばなかった。

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