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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第34章
頭の中で地団駄を踏みながら焦る気持ちを募らせていたヴィヴィの前で、ようやく歩行者信号が青に変わる。ヴィヴィよりも先に牧野が飛び出し、関係者専用の入口の裏口へと駆けていく。ヴィヴィは首から下げていたIDプレートを外して手で握りしめるとSTAFF ONLYと書かれたゲートに飛び込んだ。
「男子シングル、クリス篠宮の関係者ですっ!」
早口でそう言い募るヴィヴィに、入口のスタッフが驚いたように預かったIDを機械でスキャンしてヴィヴィに返す。
金属探知機を通り抜けて記帳を済ませたヴィヴィの後ろで、金属探知機を通り抜けた牧野に「ビー!」という警告音が鳴り、警備員に止められた。
「ヴィヴィ、ここはいいから行け!」
ボディーチェックを受け始めた牧野が、焦ったように自分を見つめるヴィヴィにそう指示すると、ヴィヴィは大きく頷いて建物の中へと駆け出した。
建物内部の構造は団体戦で何度も出入りしていたので頭の中に入っていた。途中日本の関係者複数人とすれ違う。
「ヴィヴィ、クリスは最終グループの最終滑走よ!」
「もうリンクサイドにいるかも!」
口々にクリスの居所を伝えてくれるスタッフに「ありがとうございます!」と礼を言い、やっとのことでリンクのバックヤードに辿り着いた。リンクに沿って張り巡らされている長い廊下の先、日本代表の白いジャージを羽織った背の高い人物が目に留まる。
「クリス――っ!!」
ヴィヴィは氷点下で乾燥した街を駆け抜けてカラカラになった喉から掠れた声で叫ぶ。その声が届いてこちらを振り向いたクリスの瞳が大きく見開かれた。
周りにいた選手やコーチ陣にぶつからない様走り抜けたヴィヴィが、やっとのことでクリスの元に辿り着き、その勢いのままクリスの胸に飛び込んだ。
「や、やっと会えた……っ!!」
ぜいぜいと肩で息をしてそう零したヴィヴィの体を、クリスがぎゅうと胸の中に仕舞い込む様に抱き寄せる。
「ヴィヴィ……」
スケート靴を履いているせいでいつもよりさらに背の高いクリスが、ヴィヴィのニット帽を被った頭の上にこつんと顎を乗せてくる。
「遅い、よ……」