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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第34章      


 その後、SPでの不調が嘘だったかのように完璧にFPを滑りきったクリスは、FPで189.21というISUの歴代最高得点を叩き出し、SP3位からの大逆転で見事総合1位となった。

「金メダル……だぁ……」

 キスアンドクライで一緒に得点を待っていたヴィヴィは、隣で立ち上がって観衆に応えるクリスを見上げると放心したようにそう呟く。

 世界的に見てもクリスが金メダルの最有力候補であることはメディアで散々騒がれていたし、また自分もスケーターの一人として冷静に周りの選手と比較してもそうなるだろうとは思ってはいた。

 しかし実際にクリスがゴールドメダリストとなると、驚きの気持ちが強かった。前日のSPからこの会場に足を運んで観戦している父や匠海も、きっと同じ気持ちだろう。

(凄……15歳で、オリンピックの頂点に立っちゃうなんて……)

 放心したようにソファーに座ったままのヴィヴィを、クリスが見下ろして両腕を広げる。ヴィヴィは「おめでとうっ!!」と叫び立ち上がってクリスに飛び付くと、そのままクリスに持ち上げられてしまった。ぶらぶらと揺すられて、まるで自分が優勝したかのような気分だ。

「次は、ヴィヴィの番だね……?」

 耳元でそう囁いてくるクリスに、ヴィヴィの華奢な体がびくりと震える。そんなヴィヴィを床へと降ろしたクリスが愛おしそうに妹の顔を覗き込んでくる。

「プ……プレッシャー……」

 そう言って少し嫌そうに眉を眇めて見せたヴィヴィに、クリスは小さく笑ったのだった。







 オリンピック14日目――2月16日。

 スケ連が借り上げてくれている平昌のコンドミニアム「アイスハウス」には、今日と明日に個人戦の試合を控えているアイスダンスの渋谷兄妹とヴィヴィ、そしてその関係者しかいなかった。

 個人戦の試合が済んだペアの棚橋成美とマービン藤堂は男子シングルの試合を観戦した翌日には日本へと帰国し、そして男子シングルの3人は、個人戦を控える女子シングル選手とアイスダンスの兄妹に少しでもプライベートな環境を提供するために、オリンピック村へと移動してくれていた。

 そして女子シングルの村下と宮平はSPが行われる前日の2月18日まで、日本で調整を行うためにまだ韓国入りしていなかった。

(ま……クリスの試合がなければ、私も前日入りでよかったんだけど……)
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