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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第35章
ミスが一つも許されないSPは、肉体的疲労の強いFPに比べ精神的な疲れが先に来る。けれど沢山の手拍子に後押しされ、ヴィヴィは自分をコントロールして滑っていく。
最後にツイズルでストレートラインステップを締めくくったヴィヴィは、イナバウアーからのトリプルフリップを降りた。
(これで、最後――!)
ヴィヴィは渾身の力を振り絞り、フライングシットスピンからI字スピンへと移行する。高速のスピンに場内からは大歓声が沸き起こり、ヴィヴィの耳にも音楽が届きにくくなる。
最後に大きく上体をそらしてフィニッシュしたヴィヴィは、その状態で大きく息を吐き出すとゆっくりと起き上った。
その視界にまずぱっと入ってきたのは、大きな画面に映し出された自分の姿と、総立ちに近い観客。
「……――っ!!」
ヴィヴィは息を呑んで辺りを見回す。大きな灰色の瞳に映るのは、信じられない数の日の丸旗。ところどころに英国旗も見える。そして観客の表情は押し並べて興奮したものだった。
途端に衣装に包まれたヴィヴィの両腕にばっと鳥肌が立ち、心臓がどくどくと鼓動を速めていく。
いつも通りの演技が出来たことの誇らしさと、五輪という大舞台で観客からこれだけの拍手喝采を受けたことに対する興奮が、ヴィヴィにとてつもない達成感を与えてくれた。
(やったやったっ!!)
気が付くとヴィヴィはまるで子供の様に、弾けんばかりの笑顔でその場でぴょんぴょん跳ねていた。
その後のことはあまり覚えていない。
興奮した状態でキスアンドクライへと戻ったヴィヴィはジュリアンとクリスに飛びついてハグし、全日本選手権よりは低かったがグランプリファイナルのSPよりは高い点数に喜び……。確か、各国のメディアの取材もそつなく熟した筈――だ。
しかしその後のISU公式記者会見の直前でも浮き足立っていたヴィヴィは、ジュリアンにがしと腕を掴まれた。
「ヴィヴィ、いい加減冷静になりなさい。まだ明日もあるんだからね――?」
そう厳しい苦言でお灸を据えられてやっと正気に戻ったヴィヴィは、粛々とSP首位の選手がやるべき行事を熟したのだった。