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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第35章    



(うん。いい感じ……)

 袖を通すのはホームリンクでの試着を含め2回目となる衣装の着心地に、ヴィヴィはそう心の中で感想を漏らす。

 2月20日――個人女子フリースケーティング。

 午前中の公式練習をFPサロメの新衣装で臨んだヴィヴィに、各国のメディアからカメラが向けられていた。

 団体戦まで着ていた赤と黒の衣装からがらりとイメージが変わった、アラビアンナイトのお姫様が似合いそうなパンツスタイルの衣装。青より紫に近い色味に黄金色の刺繍がとても映えてエキゾチックだ。

 今は無造作に髪を結い上げてメイクも施してはいないが試合では、今まで赤石のヒンディを着けていた眉間には、黄金色のヘッドチェーンを足らすこととなっている。
 
 順番に流される各選手のFPの曲のなか、入念にジャンプやスピンを確認していると、ヴィヴィのサロメの番となった。リンク中央の所定の位置に立ったヴィヴィは、本番を想定して全力でプログラムを通した。

 その後アイスハウスへと戻り昼食と仮眠をとったヴィヴィはすっきりとした頭で目覚め、コーチ陣と打合せをしたり備え付けのウォーキングマシーンで軽く走ったりしてリラックスして過ごした。

 夕方、持ち込んだ大好きなバスソルトでゆっくり温まったヴィヴィは、栄養士が用意してくれたお握りといった軽食を食べて化粧を施すと、試合会場へと向かった。

 イメージを膨らせるため、車の中でiPadを使い午前中の公式練習の演技を見直したヴィヴィは、会場に到着するとバンから降りた。その途端、既に日が暮れた辺りに眩しいフラッシュの光がたかれる。

「Do you have the confidence which wins a gold medal?」

「篠宮選手、今日の調子はどうですか!?」

「오즈에서는 당신이 제일 인기에요!」

 様々な言語で質問攻めにされたヴィヴィは、軽く会釈をすると何も答えずに関係者入口から中へと入った。

 会場に入っても放映権を持った各国のTV局の記者がおり、

「今、篠宮選手が会場入りしたようです。表情はとてもリラックスしているように見えます」

 等と逐一カメラを向けられ報道される。こういう状況はオリンピックに限ったことではくさすがに慣れたヴィヴィは、iPodの音量を上げて雑音を排除した。

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