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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第35章
スケジュール通りにアップを終えてFPの衣装に着替えたヴィヴィは、日本代表ジャージを羽織って廊下の椅子でスケート靴を履いていた。傍にはジュリアンとクリスが付いていてくれる。ヴィヴィは特に緊張することもなく履き終ったスケート靴の上から肌色のストッキングを被せ、パンツスタイルの衣装の裾を留める。
足元から視線を上げたヴィヴィは、隣に立っていたクリスが手の中のスマートフォンをちらりと確認して、ほんの一瞬だけ眉を潜めたのを捉えた。
「どうしたの?」
不思議そうに尋ねたヴィヴィに、クリスは「なんでもないよ……」とはぐらかし、綺麗にセットされたヴィヴィの頭をポンと撫でる。
「え~何なに……? 気になって滑れない~~」
昨日に引き続き緊張感のないヴィヴィは、そう駄々をこねて朱の引かれた唇をつんと尖らす。
「はぁ……そうだよね……ごめん、こんな時に、気にさせちゃって……」
クリスはそう言ってまず謝った後、言っていいのかと迷うような仕草を見せた。しかしヴィヴィがじ~っと自分を見上げているのを確認し、しぶしぶ口を開いた。
「兄さん……ちょっと、遅れるって……」
「…………?」
(遅れる……?)
昨日のSPから韓国入りしている筈の匠海が遅れるとは何か事故にでも巻き込まれたのかと、ヴィヴィは途端に不安な表情になる。
「ほら、試合っていつも夜から……でしょ? 午前中に韓国オフィスで仕事していたら、日本オフィスでトラブルが発生したらしくて……」
クリスの説明に、さらにヴィヴィの表情が曇る。
「あっ……でも、ダッドからのメールでは、何とかヴィヴィの演技には間に合いそうだって……」
珍しく焦ったようにそう付け加えるクリスに、ヴィヴィは無理やり笑顔を作り
「そっか……しょうがないよね……」
と自分に言い聞かせるように呟いた。
(仕事なら、仕方ない……しょうがない……)
そう頭では分かっているのに、内心を表すように視線が徐々に落ちていく。
「大丈夫よ」
双子の間にきっぱりとそう言い切って入ってきたのは、先ほどまでスケ連の幹部と話し込んでいたジュリアンだった。
ヴィヴィは何故か自信満々なジュリアンを、まるで縋るような瞳で見上げる。
「大丈夫――。匠海はいつだって、ヴィヴィの我が儘を叶えちゃうんだから」