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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第35章
ジュリアンはそう言うと、少し呆れたように腰に両手を当ててヴィヴィを見下ろしてくる。
「え……?」
「え? って……。自覚ないの、ヴィヴィったら?」
ヴィヴィの呟きに、ジュリアンは今度こそ本当に呆れた顔をした。
(自覚…………ある)
ヴィヴィは頭の中でそう思い、唇を窄める。
確かにいつも、匠海はヴィヴィの――ただの我が儘と紙一重とも取れる――願いを叶えてくれている。
(それに……お兄ちゃんは、ヴィヴィがオリンピックで金メダルを取ったら、願いを叶えるって言ってくれた――)
だからきっと匠海は自分の演技までに、ここに辿り着く筈だ。
「うん……ヴィヴィ、自覚あった!」
そう言ってにかっと白い歯を見せて笑ったヴィヴィに、ジュリアンが「なにそれ!」と吹き出した。
「大体ね~、ヴィヴィは緊張感無さすぎなのよ! 分かってる? この最終グループは全米女王、ヨーロッパ女王、世界女王が揃い踏みしている、熾烈なグループなのよ?」
「あ~、そうだったね~」
ヴィヴィは斜め上を見つめて思い出したように呟く。確かに先ほどから全米女王やらヨーロッパ女王やら世界女王やらがヴィヴィ達の前を、ある者は引き締まった表情で、ある者は思いつめた表情で通り過ぎていっている、
だが正直今のヴィヴィには、どのグループで滑ろうが関係なかった。誰の後に滑ろうが、自分の演技の出来の善し悪しの言い訳にはならない。
(ていうか……コーチのマムが教え子であるヴィヴィに、プレッシャー掛けるようなこと口にする?)
そう思いながらも口に出すのは賢明でないと長年の経験で悟っているヴィヴィは、隣のクリスに小さく両肩を上げて見せた。
「そろそろ最終グループの6分間練習が始まりますよ」
大会スタッフがヴィヴィ達のところへそう言いながらやってきた。
「はい」
ヴィヴィは椅子から立ち上がると最終グループの選手達に続いて、エッジカバーをはめたスケート靴でリンクサイドへと入った。
6分間練習も予定通りまあまあの出来で終えたヴィヴィは、最終滑走の自分の番が来るまで「七つのヴェールの踊り」を聞きながら心を整える。
6分間練習から30分程経った頃、やっとヴィヴィの滑走順となった。