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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第36章     

 ヴィヴィが過ごしてきたそういった日常を、その隣で全く同じ様に接してきたクリス。今のヴィヴィの気持ちが解るのは、きっとクリスだけだろう。だから――、

「ありがとう。いつも、傍にいてくれて――」

 ヴィヴィは上半身をクリスから離し、エッジの分いつもより視線の高さが近いクリスを見上げて微笑んだ。

「僕のほうこそ……ありがとう、ヴィヴィ……」

 クリスは静かにそう返してくれた。ヴィヴィと同じ灰色の瞳は、ほんの少しだけ潤んでいた。

 その後スケ連の皆とハグしてキスアンドクライのソファーに腰を下ろしたヴィヴィに、真正面からテレビカメラが向けられる。

 目の前のモニターでは、既にスロー再生による演技映像は流し終わっていたらしい。ヴィヴィはカメラに向かって両手を使ってハートマークを作ってみせる。そして斜め上をちらりと見上げる。

(え~と……)

「Thank you Mr.&Miss. Owen(オーウェン)、Mr.&Miss. Wyatt(ワイアット)!!」

 まず「俺達の名前読んで」と煩かった、父と母の生家の親族を読み上げる。

「ジャンナ、宮田先生。I love you!」

 そしてこの二人がいなければ、この舞台に立てたかどうかも分からなかった振付師の二人に。

「クラスのみんな、プロフェッサー、松濤のみんな~!」

 隣に座ったクリスと一緒にカメラに向かって手を振る。今まで支えてくれた周りの大事な人達に、少しでも恩返しができればと思いながら。

 会場に流れていた曲がぷつりと途絶える。

 その瞬間、皆が息を潜めるように会場がさっと静まり返った。

 震えが治まっていた筈のヴィヴィの体がびくりと大きく震えた。

 アナウンスが韓国語と英語でヴィヴィの名前を読み上げる。
 
 ヴィヴィは咄嗟にギュッと瞼を瞑ってしまった。

 いつの間にか早くなっていた鼓動が、まるで耳の傍で鳴っているかのようにどくどくと煩い。

 白いソファーの上で握りしめた拳の上から、クリスが握りしめてくれているのだけが唯一の救いだった。

「金メダルだったら、お兄ちゃんに告白する」というモチベーションは今やどうでもよかった。ただ、ずっと今までやってきた小さな積み重ねがどういう結果で実を結ぶのか、その現実を直視するのが今のヴィヴィには怖すぎた。

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