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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第36章
ぽかんと口を開いたヴィヴィをテレビカメラが捉える。とたんに大きなスクリーンにその姿が映し出されたのを確認したヴィヴィは、はっと気づいて自分を取り戻し口を両手で押さえた。その飾り気のない仕草に観客がどっと沸く。
ヴィヴィはくしゃりと泣き笑いのような表情を浮かべると立ち上がる。
代表ジャージに付いた小さな日の丸をギュッと掌で握りしめ、左手にした指輪にキスをする。そしてアリーナ中の観客から贈られる惜しみない拍手に両手を挙げて答えた。
「ヴィヴィ」
いつも通りの平坦な口調で自分を呼ぶ声。
そちらに視線をやると、いつも通りの落ち着いた表情のクリスがいた。
「約束、果たしたよ?」
そう言っていたずらっぽく見上げると、苦笑したクリスがヴィヴィを感慨深げに抱きしめる。
その途端に周りにいたマスコミが一斉にシャッターを切り、辺りは目も開けられないほどの眩しさとなった。さしずめ明日の新聞の記事には「史上初! 双子の兄妹、W金メダルの快挙!!」と堂々たる煽り文句が載せられるのだろう。
「綺麗だったよ、ヴィヴィ……」
体を少し離したクリスは、彼にしては珍しく満面の笑みを湛えて、ヴィヴィを愛おしそうに見つめる。
「むぅ、過去形~?」
先ほどの緊張はどこへやら頬を膨らませて見せたヴィヴィに、クリスが瞳を細めてその頬を両方からつねる真似をしてみせた。
その後キスアンドクライのソファーでコーチと双子で公式な写真を撮り終えると、ヴィヴィは額に滲んだ汗を拭いてバックヤードで待たせているマスコミの取材を受けるために席を立った。
スケ連の付き添いに貰った花や荷物を渡してバックヤードへ下がろうとした時、
「ヴィヴィっ! クリスっ!」
すぐ近くから、聞き覚えのある声がした。
その声の方向を振り向くと、リンクに近い観客席に父グレコリーの姿があった。ヴィヴィの瞳が真ん丸になる。
「ダッド! 間に合ったの――っ!?」
「当り前だろ! 愛娘の晴れ姿を見逃す父親がいるものか!」
傍に駆け寄って父に両手を伸ばすと、腰の高さのフェンス越しにしかと抱きしめられた。
痛いくらいの抱擁と、そして少しばかり震えた身体。
ああ、きっといつも陽気なこの父でも、娘の大舞台にまるで自分のこと以上に死ぬほど緊張してくれていたのだろう。