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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第36章
「ふふ。そうだな、すごいプレッシャーだったもんな。お疲れ、お疲れ! 偉かったぞっ」
と褒めたたえその小さな頭を撫でる父とは対照的に、クリスはヴィヴィの顔を覗き込むと
「でも駄目……これからISUの公式記者会見もあるし……日本チームの皆と、各局のスタジオに行くことになってるんだから……」
と意地悪そうに現実を突きつける。いやいやと首を振るヴィヴィはさらに匠海にしがみ付く。
「……やだもんっ!」
「あはは、甘えんぼ全開だ」
小声で抵抗したヴィヴィの身体を匠海が優しく剥がそうとするが、ヴィヴィはごにょごにょと呟いて離れようとしない。
もちろん、匠海から離れたくないのもある。しかし、
(ヴィヴィの顔……今、泣きすぎて、凄いことになってる筈……)
ヴィヴィは一気に現実に引き戻され、ぐちゃぐちゃになっていそうな自分の顔を思い浮かべて青ざめた。
「マム、ティッシュちょうだい」
いつの間にか傍に来ていた母に、匠海がティッシュを求める。
皆には見えないようにヴィヴィに鼻をかませると、体を離す。そして膝を曲げてヴィヴィの顔を覗き込んだ匠海は、愛おしそうにヴィヴィのパンダ目になった化粧を指先で拭ってくれる。
「うん、可愛いかわいい。もういつも通りのヴィヴィだから、ちゃんと皆様の前で今まで応援してもらったお礼をしてきなさい」
(お兄ちゃん……)
いつも我儘を言ったヴィヴィを諌める時の優しい瞳で覗き込まれ、ヴィヴィは兄から離れがたがったが素直にこくりと頷いた。
「よし、いい子だ」
満足そうにそう言った匠海はヴィヴィの体を母の方にくるりと向ける。そしてぽんと背中を押した。
「行っといで。先に帰って、日本で待ってる」
不安そうに振り向いたヴィヴィに匠海はそう言って送り出す。
「う、ん……すぐ、すぐ早く帰るから……ダッドとマムとクリスと一緒に、夕食食べよ?」
離れがたそうにでもそう呟いたヴィヴィに、男性陣三人は笑顔で頷き合った。