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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章
就寝時間が近いからだろう、匠海がカフェインレスのハーブティーを手慣れた様子でセットし、ソファーまで持ってきてくれた。匠海の隣に腰を下ろしたヴィヴィは、透明なティーポットの中でジャンピングする茶葉に目を落とす。
「リンデンフラワー……いい香り……」
リラックス効果のあるカモミールやオレンジピールの香りの他に甘い花の香りがして、ヴィヴィは灰色の瞳を細めた。桃色の薄い唇がふっと綻ぶ。
「テレビ、観てたよ……」
「え……?」
匠海がティーポットを見つめながらぼそりと零したその言葉の意図が掴めず、ヴィヴィは匠海の横顔に視線を移す。
「平昌で『もうおうちに帰りたい』ってヴィヴィが泣いただろう? それでも頑張ってエキシビ滑ってテレビに出て続けたから、俺もちゃんとヴィヴィの事見守ろうと思って……」
匠海はそこで言葉を区切ると、部屋の隅にある大きな液晶テレビを指さして苦笑する。
「ヴィヴィとクリスが出ている番組、全部録画して観てたよ」
「…………っ」
ヴィヴィは絶句して匠海を見つめた。匠海には大学も会社もあるのに、自分達が出た番組全てを観てくれたなんて……。
しかもその理由が「ヴィヴィが泣いたから」だなんて……。
「よく、頑張ったな……お疲れ様。そして、お帰り」
匠海はそう言って右手をヴィヴィの頬に添えてゆっくりと撫でた。暖かくて大きな掌にすっぽりとくるまれて、ヴィヴィは緊張するのに安心するという一見相反する心境になる。
(あんなの、ただの我が儘なのに……)
匠海は駄々を捏ねたヴィヴィに「ちゃんと皆様にお礼をしてきなさい」と言ったことを、責任を感じてくれていたのだ。
「滑り終わって、お兄ちゃんの顔見たら、ホッとしちゃったの……っていうか、ホッとしすぎちゃって――」
「テレビでも号泣してるヴィヴィ、何回も観たよ」
さんざん各局でからかわれたヴィヴィをさらにからかってくる匠海に、ヴィヴィは小さく唇を尖らす。
「お兄ちゃんのこと、根掘り葉掘り聞かれちゃった……あの後何人にも『美形お兄さんの連絡先、教えて!』って言われたんだよ……教えなかったけど――」