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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章
最後の言葉は匠海から視線を外してぼそりと呟いたヴィヴィに、匠海が苦笑する。匠海が笑うと頬に添えられた掌も微かに震える。ヴィヴィは匠海の掌の上からそっと自分の掌を添えて、兄を見上げた。
「ありがとう……ヴィヴィ、今、お兄ちゃんに一杯いっぱい、お礼言いたいの」
「俺に……?」
「うん。平昌では仕事トラブって大変だったのに、駆け付けてくれてありがとう……。駄々捏ねちゃったヴィヴィに、『日本で待ってる』って言ってくれて、ありがとう……。膝のことや他にも一杯、気遣ってくれて、ありがとう。あと……ネックレス……ありがとう。凄い、効果テキメンな幸運のお守りだったよ」
他にももっと沢山「ありがとう」があるのに、言葉にならない。けれど匠海はヴィヴィがぽつりぽつりと要領を得ずに思いついたまま口にした「ありがとう」に、一つひとつ「どういたしまして」と微笑んで返してくれた。
口元に浮かぶ薄い笑い皺に、ヴィヴィの心臓がきゅっと疼く。
(お兄ちゃん……好きよ……。大好き……)
ずっとこうしていたかったがそういう訳にもいかず、ヴィヴィは匠海の掌の上から自分のそれをゆっくりと離した。匠海も添えていたヴィヴィの頬から掌を離す。
「…………あっ!」
匠海の掌の暖かさを名残惜しく感じていたヴィヴィだったが、ずっと忘れていた「匠海に会いに飛んできた理由」を思い出した。すぐに床に置いていた鞄をがさごそと漁ると、その中から目的のものを取り出す。
「本当はね、お兄ちゃんに一番初めに掛けてあげたかったの。でも、マムの他にも何人にも掛けちゃったし、触ってもらっちゃった……」
ヴィヴィはそう言って申し訳なさそうに黒い革張りの箱を開ける。その中には黄金色に輝く金メダルが鎮座していた。
「………………」
箱ごと匠海に渡したが、兄はじっと手の中のメダルを見つめるだけで何も発しなかった。リビングにしんと沈黙が下りる。何故か居心地の悪さを感じたヴィヴィが、急に不安に襲われた。
(え……と。どう、しちゃったの、お兄ちゃん……?)
ちらりと匠海を覗き込んでも、匠海は微動だにしない。
(もしかして……五輪の金メダルでも、お兄ちゃんにとっては、不足……なのかな?)
ヴィヴィは自分の手元に視線を下すと、落ち着きなく視線を彷徨わせる。