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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章      

 自分の中では一番が五輪の金メダルで、その次が2週間後に初めて出場する世界選手権の金メダルという位置づけだった。おそらくフィギュアスケートのアマチュア選手が誇れる最高の栄誉は、その二つであろう。

(でも、お兄ちゃんにとっては、違う、のかも……)

 そう思った途端、ヴィヴィは羞恥にかられた。

 五輪の金メダルを渡せば、きっと兄は手放しで誉めて喜んでくれる――そう勝手に思い込んでいた自分の浅はかさが浮き彫りになり、さっと頬が朱に染まる。

「ご、ごめん、なさい……」

 ヴィヴィは消え入りそうな細い声でそう言うと、匠海の手の中の金メダルの箱に手を伸ばす。

「え……?」

 急に謝られた匠海は訳がわからなかったようで、ぱっと視線を上げてヴィヴィを見下ろしてくる。

「ごめんなさい……ヴィヴィ、一人で浮かれちゃって……」

 ヴィヴィは匠海と視線を合わせるのが怖くて、匠海の手元だけをじっと見てもう一度謝る。

「何言ってるの、ヴィヴィ?」

 不思議そうな声を発した匠海が伸ばした手が、俯いたままのヴィヴィの顎に添えられ、ゆっくりと上を向かされる。

「なんで泣きそうな顔してる?」

 心底不思議そうな顔をした匠海に、ヴィヴィはふにゃと顔を歪めて泣く一歩手前のような声で言い募る。

「だ、だって……」

「あ。もしかして、俺が黙っちゃったからか……。どう誤解させちゃったか知らないけれど、違うぞ?」

「ち、違う……?」

 まだ唇を~の字に歪めたままのヴィヴィが、恐る恐る尋ねる。

「ああ。ちょっと感慨深すぎて、言葉にならなかっただけだ……」

「…………?」

(感慨、深すぎる……?)

「いや……ヴィヴィもクリスも、歩けるようになったとほぼ同時期から氷の上に立ってたんだ。まあ、二人は覚えてないだろうけれど……俺はずっと、傍で見てきたから――」

 確かにヴィヴィには初めて氷の上に立った時の記憶はない。

 母の仕事場であるリンクには物心つく前から出入りしていたらしいので、当然といえ当然か。そして、自分たちより6歳も年上の匠海がずっと見守ってきてくれたことはもちろん知っている。

「お兄、ちゃん……?」

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