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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章
「お前達は転んでもこけても、氷の上できゃっきゃ言って笑ってた。ただの遊びのはずがいつの間にかスピンが出来るようになったりジャンプが出来るようになったりして……。どんどん成長していくお前達を、本当にずっと傍で見てきたんだ――」
そう言ってヴィヴィの顎から手を引いた匠海を、ヴィヴィは何も言えずに見つめ返す。
「ヴィヴィが初めてトリプルアクセルと飛んだのだって、本当に昨日のことのように思い出されるよ……」
「…………」
昔を懐かしむように瞳を細めた匠海から、目が逸らせなかった。
どうして兄が自分の五輪のメダルを喜んでくれていないのではと、一瞬でも思ってしまったのだろう。そんなこと、この兄に限って絶対にある筈がないのに――。
「おめでとう。本当に、おめでとうヴィヴィ……よく、頑張ったな――」
一言ひとことを噛み締めるように、大切に言葉にしてくれているのが伝わってくる。匠海の綺麗な灰色の瞳が、今日はいつもより潤んで輝いているのは気のせいではない筈だ。
暖かくヴィヴィを慈しむ瞳の色に、ヴィヴィは心の底から震えた。
(自分が周りのみんなより頑張ったとは思ってない……けれど、お兄ちゃんにそう言ってもらえると、自分を褒めてあげたくなる……)
ヴィヴィの頬がふにゃんと緩みまくって仕方なくなる。
ヴィヴィは大きく頷くと、匠海の手元から金メダルを取出した。そしてソファーの上に膝立ちになると匠海の首にそれを掛けた。
「ありがとう、お兄ちゃん。大好きよ……」
「俺も、大好きだよ、ヴィヴィ」
こんなに面と向かって匠海に「好き」と言ったのは、いつ振りだろう。躊躇なくその言葉は舌に乗って溢れ出た。
腕を伸ばしてそのまま匠海の首に縋り付けば、力強く抱きしめてくれた。
一分ほどそうして体を離したヴィヴィは、幸せに満ち足りていた。少しの気恥ずかしさに視線を落とせば、匠海の首に掛けられたメダルが視界に入り、ふと脳裏にある事柄が蘇った。
「ね……お兄ちゃん……」
「ん?」
「約束、覚えてる……?」
今から4ヶ月程前、匠海と交わした約束――。
「約束? ああ、勿論だよ。 ……って……なんだっけ――?」