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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章      

 ヴィヴィはそう言って小さく微笑むと、ひたと匠海の灰色の瞳に視線を合わせた。自分と同じ色の兄の瞳には「妹をからかってやろう」という悪戯心がちろちろと見え隠れしている。

(そんなところも、好きよ……)

 ヴィヴィは心の中でそう匠海に告白すると、瞳を細める。

 乗馬している時の匠海の瞳は、清々しくて、好き。

 仕事をしている時の匠海の瞳は、凛々しくて、好き。

 そして、ヴィヴィをからかうおうと企んでいる時のお兄ちゃんの瞳は、まるで大きな子供みたいに輝いていて――大好き。

(ずっと……ずっと傍で、お兄ちゃんの隣で、見つめていたいの……)

 ヴィヴィは匠海の両手に包まれたままの掌に、きゅっと力を込める。

 伝わればいいのにと思う。

 触れ合った体から、どれほど自分が匠海のことを想っているか、恋焦がれているか、虜になっているか、伝わればいいのに――。

(お兄ちゃんが、欲しいの……)

 匠海のことに関してはどこまでも貪欲なヴィヴィの本心が、体の奥底から湧き上がってくる。

 欲しい。

 お兄ちゃんが欲しい。

 優しく触れてくる大きな掌も。

 ヴィヴィを励ましたかと思えば、からかってくる天邪鬼な唇も。

 自分だけに注がれる、愛おしそうな眼差しも。

 自分なんかすっぽりとその身に隠してしまえる、その大きな胸も、長い腕も、広い肩も。

 お兄ちゃんの、全てが、欲しい――。

 それこそ、本当に喉から手が出そうなほど。

 その独占欲にも似た思慕の念が、ヴィヴィが懸命に体を張って閉じていた扉を、強引に開け放とうとする。

 ヴィヴィは自分の溜め込んだ熱情に当てられたように熱っぽい瞳で匠海を見下ろし、桃色の唇を開く。

「欲しいのは――」

 けれど、ヴィヴィはそこで言い淀んだ。

 理性や恐怖という強い逆風が、開け放たれようとする扉を抑え込む。

 自分の気持ちを伝えたら、終わり。

 その言葉が胸に重く圧し掛かって、その先を口にすることを阻ませる。

 自分は告白すれば、確実に楽になる。

 しかし自分の勝手な一言は、優しい匠海を心底悩ませ、心を痛めさせる。

 ましてや今の自分は本人の意思ではないが、公の場に出すぎている。

 万が一、自分の邪まな感情がどこかから漏れてしまったら、間違いなく社会の糾弾を受ける。

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