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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章      

 そうなれば自分だけでなく、大切な人達を世間から後ろ指を指される生活に晒させてしまう。

「…………っ」

 ヴィヴィの唇がギュッと真一文字に結ばれる。

(そんなことは、ヴィヴィだって分かってるの……分かり切ってるの……だけど――っ)

 小さな頭の中を様々な思いが駆け巡り、肯定しては否定して打ち消してと葛藤を繰り返す。

 ヴィヴィはぎゅっと瞼を瞑った。

 遮断された視界、その暗闇の先に、葛藤の答えを見いだそうと視線を凝らす。

(もう……覚悟を決めるしか、ない――)

 心を決めて瞼を上げれば、目の前に少し心配そうにこちらを見上げる匠海の視線とかち合う。

 ヴィヴィは困ったように薄く微笑むと、ゆっくりと唇を開いた。

「欲しいのは…………お兄ちゃん――」

 少し語尾が震えてしまったと、ヴィヴィは変なことを気にして思った。

 一方、匠海にはヴィヴィの言ったことが瞬時に理解できなかったようだ。

 普段は見せないぽかんとした表情でヴィヴィを見上げると、

「え?」

 っと、すこし間抜けにも聞こえる声を発した。ヴィヴィはそんな匠海から瞳を逸らさずに兄の様子を注視する。

 綺麗な瞳にヴィヴィのシルエットが映りこんでいるのが分かる。

 笑われるのではないかと思った。

 『俺は物じゃないだろっ!』と一笑に付され、『で、本当に欲しいのは何?』と突っ込まれるのだろうと思った。

 しかし実際は、匠海を見守るヴィヴィの前には、沈黙だけが下りていた。

 匠海はヴィヴィから瞳を逸らそうとはしなかったので、ヴィヴィもずっと匠海を見つめていた。

 妙にヴィヴィの心は静かに落ち着き払っていた。

 けれどそれも数秒のことで。

 匠海の瞳が徐々に細動しだした。

 初めは小さく振れるだけだった灰色の瞳が、やがて左右へと小刻みに動き始める。

 それはまるで、匠海の心の中を鏡のように映し出すように――。

 どうして、そんなに狼狽えるのだろう?

 ふとヴィヴィの中に小さな疑問が浮かぶ。

 『また、お子ちゃまが馬鹿なことを言って!』といつもの匠海ならば、妹をからかう絶好の機会ではないのか?

 目の前の匠海の表情がみるみる曇っていく。もはや視線はヴィヴィから逸らされ、歯を噛みしめているのか、整った顎のラインが不自然に歪んでいるのが見て取れる。

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