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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第37章
不思議なほど凪いでいたヴィヴィの心が、瞬時に波打ち始めた。
(お願い……そんなに、困った顔しないで……分かってるから……)
当惑を通り越して困惑の表情を浮かべる匠海を、ヴィヴィはこれ以上見ていられなかった。
「――との一日デート券!」
口から滑り出たのは、滑稽なほど明るく弾けた声。
いきなり沈黙を破って笑顔を見せたヴィヴィに、匠海がふっと視線を上げる。その瞳を真っ直ぐ見つめたヴィヴィは、もう一度笑顔を作った。
「行先はお兄ちゃんに任せる! 可愛い妹の一生の思い出に残るようなデート、プレゼントしてね?」
「デート……?」
瞳を瞬かせて見上げてくる匠海から、ヴィヴィは不自然にならないように包まれていた手をそっと抜いた。指を組んだ両手を頬に添えて夢見るように先を続ける。
「うん。ヴィヴィ、デートしたことないの! 初めてのデートは素敵な思い出にしたいんだもんっ! だからお願い!」
おどけた様子で顔の前で両手を合わせて拝み倒すヴィヴィに、匠海がふっと表情を崩した。
一瞬だけ垣間見えたその表情。
紛れもない、安堵の表情。
それを見逃さなかったヴィヴィの胸が、つきんと硬い痛みを覚えた。
そんなヴィヴィの気持ちなど露知らず、匠海が相好を崩して笑いかけてくる。
「いや、俺でいいの? 初デートの相手」
「うん……」
ヴィヴィは頷くと、もう一度匠海の瞳をひたと見つめた。
「お兄ちゃんが、いいの――」
(他の誰でもない……あなたが、いい……)
ヴィヴィが口角を上げて瞳を細める。
「そっか、分かった」
匠海はそう言って片膝の状態から立ち上がると、ヴィヴィの金色の頭に掌を乗せた。
「でも覚悟しておけ? 俺とのデートが良すぎて『もう他の男子とデート出来ない!』って言っても責任取らないからな?」
得意げにそう言う匠海に、ヴィヴィは「え~~?」と半信半疑の表情で声を上げた。
そしてデートの日時は、双子の今シーズン最後の試合である国別対抗戦の後ということで落ち着いた。