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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第38章       

 五十嵐と朝比奈に見送られ、BMWが発進した。松濤の一等地である広大な篠宮邸の周りは高い塀に囲まれており、その一角に設けられた電動の門扉を通り抜けて公道へと出た。

(どこに連れて行ってくれるんだろう……?)

 ヴィヴィはちらりと運転席の匠海を見つめる。今日は天気がいいので眩しいのだろう、茶色のサングラスを掛けている匠海は、なんだか知らない人にも見えてドキドキする。

 高鳴る胸で前を向き直れば、なんと屋敷を出て数分で、車は東急百貨店本店の地下駐車場に滑り込んで停まった

「あれ……? もう着いたの?」

 不思議そうに尋ねるヴィヴィに、降りて助手席に回った匠海が扉を開けてくれる。

「ああ、おいで」

(…………?)

 地下駐車場のエレベーターに乗り込むと、「人が多いから、はぐれないでね」と匠海がヴィヴィの手を自分の腕に絡ませた。途端にヴィヴィの頬が薔薇色に染まる。

(行先なんて正直、どこでもいいや……お兄ちゃんの隣に居られて、今日一日だけ独り占めさせてもらえるなら……)、

「うん……」

 キュッと腕にしがみついてちらりと匠海を見上げれば、匠海にポンと頭を撫でられた。

 エレベーターは一階で止まり、匠海が降りるのについていく。てっきりこの百貨店が目的地だと思っていたが、匠海はアクセサリーフロアをすいすいと抜けて、外へと出てしまった。

(うわぁ……)

 ヴィヴィは目の前の街並みに目をぱちくりとさせた。視界に広がるのは、テレビや雑誌で目にしたことがある、道玄坂。

「行こう?」 

 思わず立ち止まってしまったヴィヴィを、匠海が促す。

「え……う、うん」 

 歩き出した途端、ヴィヴィは小さな頭をきょろきょろとさせ始めた。その度に匠海の横でヴィヴィの黄金色の巻髪がふわふわと跳ねる。

「わぁ! 見て、お兄ちゃん。あれ、可愛い~!」

 ヴィヴィは匠海の腕を引っ張ると、すぐ傍のショーウィンドウに駆け寄った。

 ガラスに隔たれた中には、不思議の国のアリスの世界が広がっていた。無数のトランプが渦を巻いて宙を舞い、傍には時計を見つめる白ウサギ。そしてその中央には水色の可愛らしい靴とバックが飾られている。

「これからの季節に合いそうな色だね」

「ね~」

 ヴィヴィは匠海を見上げてにっこりと笑う。

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