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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第38章
「お店入ってみれば?」
「え……? い、いい」
ヴィヴィはふるふると首を振る。「どうして?」と匠海が優しく問えば「朝比奈がもう夏物を注文したって言ってたから」と小さく笑ってショーウィンドウに視線を戻した。
しばらく見つめていたヴィヴィは「行こう?」と匠海を促す。そして歩き出せば、またヴィヴィがきょろきょろとしだす。灰色の大きな瞳は好奇心旺盛に、くるくると動き回る。
「わ~、大人っぽ~い……」
ヴィヴィが小さく呟いた言葉に、その視線の先を追えば、店頭に胸の前がドレープになり大きく開いたライトグレーのニットが飾られている。高校生ならば少し背伸びをすれば着られるようなデザインだ。
「入ってみる?」
匠海がまたヴィヴィに尋ねてくるが、ヴィヴィは顔の前で空いたほうの手を広げ、大げさに振った。
「無理無理無理! ああいうのはキレイ系の子じゃないと、着こなせないもん……」
(っていうか……胸がない子が着たら、まな板状態を晒しまくる悲惨な状況になります……)
ヴィヴィは心の中でそう追加すると、自分のワンピースの胸をちらりと見下ろして苦笑した。
「ところでお兄ちゃん。どこへ向かっているのか、聞いてもいい?」
歩き出しながら、ヴィヴィが匠海を見上げて尋ねる。
「ああ。あそこだよ」
匠海がさっと指差した先を見て、ヴィヴィは「えぇっ!?」と声を上げた。
匠海の示した目的地は、ギャルの殿堂――109だった。ヴィヴィの悲鳴にも似た声に、通りすがりの人々が振り向く。
「ねえ、あの子……」
「うん。金メダリストの……」
咄嗟に声のしたほうを振り向くと、ヴィヴィ達を見て囁いていたカップルが「うわ、やっぱりそうだよ!」と騒ぎ出した。
(あぁ……またやっちゃった……)
新年の英国大使館と同じことを繰り返してしまい、ヴィヴィは脳内で頭を抱える。
「あの、ヴィクトリアちゃんですよね?」
今度はヴィヴィの後ろのほうから、女子に声をかけられる。
「え、は、はい」
ヴィヴィは何故か後ろめたくなって、匠海からすっと手を放すと振り返った。
「きゃ~っ!! オリンピック見てました! ファンなんです、握手してもらってもいいですか?」