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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第38章       

 初めてのことでよく分からないヴィヴィは、不安そうに匠海に尋ねる。

「俺の場合はね」

「そう、なんだ……じゃあ、ありがとう。ヴィヴィ、このお洋服、とっても気に入ったよ!」

 ヴィヴィはぺこりと匠海にお辞儀をすると、満面の笑みで匠海を見つめた

「どういたしまして」

 匠海が乱れたヴィヴィの金髪を指先で直してくれる。

「はい、どうぞ。お客サン、こんなに綺麗で優しい池様とデートなんて、羨まし~! 楽しんでね?」

 いつの間にかショップの紙袋を持って二人を見つめていた店員が、心底羨ましそうな眼差しでヴィヴィに笑いかけてくる。

(池様……?)

 ヴィヴィはまた店員の言葉が分からず小さく首を傾けたが、素敵な服を選んでくれた彼女に心からお礼を言った。

「はい、ありがとうございました」

 後でファッションに詳しいクラスメイトに聞いたところ、彼女は109きってのカリスマ店員だった。

 その後2店ほど覗いたヴィヴィは匠海にまた服や小物を買い与えられ、1時間ほど滞在して109を後にすることにした。

「こ、こんなに買って貰っちゃって……ヴィヴィもなんか、お兄ちゃんにお返ししたいよ」

 しかも匠海は、自分が買ってもらった物全てを持ってくれているのだ。ヴィヴィの「お返しをさせて」というお願いなど聞く耳を持たず、エスカレーターを降りた匠海は「俺はいいの」と言ってすたすた先を行ってしまう。

 エントランスのところでやっと匠海に追いついたヴィヴィは、その腕に自分の手を後ろから絡めた。

 連れ立って自動ドアを潜り抜けて外へ出ると、にわかに匠海の歩みが止まった。

 不思議そうに斜め後ろから匠海を見上げたヴィヴィの耳に、「カシャリ」と軽いカメラのシャッター音が届く。

「え……?」

 音のした方に視線をやったヴィヴィは、驚いて言葉を失った。

 109の周りに、20人ほどの人だかりが出来ていた。

 そしてその人々の視線は、ヴィヴィと匠海に注がれている。

(な、何……?)

 困惑したヴィヴィのバッグの中で、スマートフォンが鳴った。

 振り向いた匠海に背を押され、取り敢えずエントランスの中に戻る。

 取り出して着信相手を確認すると、カレンからだった。

「は、はい……」

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