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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第38章
「だから謝るなって」
匠海はそう言うと、ヴィヴィの手の中からペットボトルを取り上げた。プシュという小さな音を立てて、蓋を取った匠海が、「喉乾いただろう?」とヴィヴィに渡してくる。
受け取って一口飲んだヴィヴィからまたペットボトルを取り上げると、蓋をして助手席側のホルダーに置いた。
「まあ……、しょうがないよ。最近、テレビをつけると、ヴィヴィとクリスのCMばっかり流れてるし……」
「そう、なの?」
滅多にテレビを見る時間を取れないヴィヴィが、驚きの声を上げる。
「ああ。お前達が思っている以上に、世間では有名人だよ。まあ、俺も正直ここまでとは思ってなかったけれどね」
「そう、なんだ……自覚、足りなかった……じゃあ、クリスと『デート』する時は、人の多いところ行かないように気を付けよう……」
ぽつぽつとそう呟くヴィヴィを、匠海が覗き込んでくる。
「クリスとは『デートしない』っていう選択肢もあると思うけれど?」
ニヤッと悪そうな笑みを浮かべた匠海に、ヴィヴィは噴出して笑顔になる。
「そんなこと言ったら、クリス、拗ねちゃいそうだよ!」
今朝、珍しくクリスが見せた唇を尖らせた顔を思い出し、二人は笑いあった。
「じゃあ、次行くか。本当はこの後、行く予定のレストランがあったんだけど、あそこの周りも人通りが多いし……どうするかな――」
匠海がポケットからスマートフォンを取出し、画面をスクロールして考え込む。
その様子に、計画を乱してしまって悪いなと思ったヴィヴィだったが、「謝るな」と言われたことを思い出し、すんでのところで口を噤んだ。
「あ……! ちょっと、このまま待ってて」
「う、うん」
運転席から降りた匠海がドアを閉め、スマートフォンでどこかへ電話をかけ始めた。ヴィヴィもカレンに「大丈夫だった、ありがとうね」と返事をしておいた。
「お待たせ。気を取り直していい所、行こうか?」
「いい所――?」
「心も躰もたっぷり充たされる――。そんな、イイ所ですよ。我が家のお姫様?」
そんな思わせぶりなセリフを吐き、形の良い唇に艶っぽい笑みを浮かべた匠海に、咄嗟にヴィヴィの瞳が釘付けになる。
(心も、躰も、充たされる……イイ所――?)